続 音の生まれる場所(下)
「…警視総監にナイフを突き立てる時のユリアの演技がスゴくて…」
笑いながら話す。
「迫力満点で、いつも相手の男優を怖がらせるんだ」
「そ、そんなに…?」
カフェで受けた鋭い視線思い出した。確かにあんな感じで迫られたら怖いかも…。
「理由があるんだよ。目が悪くて普段はコンタクトを入れてるんだけど、たまたま舞台で落としたことがあって、一番の見せ場にナイフとバナナを間違えたことがあったんだ」
「…えっ!それでどうしたんですか⁉︎ 」
「バナナ投げつけて、相手を押し倒した…」
相手役は頭を強打したらしく、それ以来ユリアさんを見ると「怖い怖い」と言うらしい。
「プッ…!」
つい可笑しく吹き出した。
(ごめんなさいユリアさん、それはさすがに笑えるかも…)
「初めて紹介した日もユリアがコンタクトなくしてて…ごめん、腕組まないと歩けないとか言うもんだから…」
「あ…それでだったんですね…」
ベタベタしてたんじゃなくて、そういう理由からくっ付いてたんだ。
「…じゃあ月曜日に駅で待ち合わせしてた時も同じ理由ですか?」
「えっ…?」
驚いて立ち止まった。
「…なんで…」
目を丸くしてる。
「たまたま…と言うか、私の勤めてる会社、そこなので…」
通りの反対側にある会社のビルを指さした。
「あのビルの3階が私のいる部署で…あの日、定時の6時で上がって、駅に着いたら見かけて…」
黙っておくのもイヤで説明した。ポカン…と社屋を見上げていた彼がこっちを見下ろす。
「…そうだったんだ…何も知らなかった…ごめん、誤解したろ?」
「少し。坂本さんとユリアさんお似合いだったから…」
同じ様な場面夢で見たのもあって驚き倍増だったけど…。
「…でもユリアさんとは何もないんでしょ?」
改めて確認。坂本さんの顔が真剣になる。
「…ないよ。前にも言ったけど、仕事上の付き合いだけ」
そのまま歩き出す。歩調がさっきよりもゆっくりだ。
「……ユリアは…先生の友人の娘さんで…僕がお世話になった家族の一人なんだ…」
声の調子が落ちつく。先生の友人ってことは、同じ楽器職人ってことだよね。
「それでこの間…仕事のお手伝いしてたんですね?」
顔見上げて聞いた。
「うん…ユリアは父親の仕事に興味があって、よく工房に来てたんだ…」
「タイミング良く道具渡してたの…そういう理由からだったんですね…」
ホッとした。仕事上の付き合いって意味がやっと分かった。
「ごめん…話が後出しになって…」
こっち向いて謝る。
「ううん…私も……」
ハッとして黙る。つい言いだしそうになって、慌てて口を閉ざした。
「…話聞いて…スッキリしました。良かった…」
自分のことは後回しにして喜ぶ。心の中ではズキズキと痛みが走った。
笑いながら話す。
「迫力満点で、いつも相手の男優を怖がらせるんだ」
「そ、そんなに…?」
カフェで受けた鋭い視線思い出した。確かにあんな感じで迫られたら怖いかも…。
「理由があるんだよ。目が悪くて普段はコンタクトを入れてるんだけど、たまたま舞台で落としたことがあって、一番の見せ場にナイフとバナナを間違えたことがあったんだ」
「…えっ!それでどうしたんですか⁉︎ 」
「バナナ投げつけて、相手を押し倒した…」
相手役は頭を強打したらしく、それ以来ユリアさんを見ると「怖い怖い」と言うらしい。
「プッ…!」
つい可笑しく吹き出した。
(ごめんなさいユリアさん、それはさすがに笑えるかも…)
「初めて紹介した日もユリアがコンタクトなくしてて…ごめん、腕組まないと歩けないとか言うもんだから…」
「あ…それでだったんですね…」
ベタベタしてたんじゃなくて、そういう理由からくっ付いてたんだ。
「…じゃあ月曜日に駅で待ち合わせしてた時も同じ理由ですか?」
「えっ…?」
驚いて立ち止まった。
「…なんで…」
目を丸くしてる。
「たまたま…と言うか、私の勤めてる会社、そこなので…」
通りの反対側にある会社のビルを指さした。
「あのビルの3階が私のいる部署で…あの日、定時の6時で上がって、駅に着いたら見かけて…」
黙っておくのもイヤで説明した。ポカン…と社屋を見上げていた彼がこっちを見下ろす。
「…そうだったんだ…何も知らなかった…ごめん、誤解したろ?」
「少し。坂本さんとユリアさんお似合いだったから…」
同じ様な場面夢で見たのもあって驚き倍増だったけど…。
「…でもユリアさんとは何もないんでしょ?」
改めて確認。坂本さんの顔が真剣になる。
「…ないよ。前にも言ったけど、仕事上の付き合いだけ」
そのまま歩き出す。歩調がさっきよりもゆっくりだ。
「……ユリアは…先生の友人の娘さんで…僕がお世話になった家族の一人なんだ…」
声の調子が落ちつく。先生の友人ってことは、同じ楽器職人ってことだよね。
「それでこの間…仕事のお手伝いしてたんですね?」
顔見上げて聞いた。
「うん…ユリアは父親の仕事に興味があって、よく工房に来てたんだ…」
「タイミング良く道具渡してたの…そういう理由からだったんですね…」
ホッとした。仕事上の付き合いって意味がやっと分かった。
「ごめん…話が後出しになって…」
こっち向いて謝る。
「ううん…私も……」
ハッとして黙る。つい言いだしそうになって、慌てて口を閉ざした。
「…話聞いて…スッキリしました。良かった…」
自分のことは後回しにして喜ぶ。心の中ではズキズキと痛みが走った。