続 音の生まれる場所(下)
『…ずっと…待ってました…』

練習室で彼を迎えた時、確かにそう言った…。

「で…でもっ!私だけじゃなかったですよ!坂本さんの帰りを待ってた人はっ…!」

柳さんだってハルシンだって楽団の人達、皆待ってた…。

「…それに、一番帰りを待ってたのはお母さんだったんじゃないですか⁉︎ 好きな物全部作ってくれてたんでしょ⁉︎ 」

定演の日、お弁当食べながらそう聞いたもん。

「そうかもしれないけど…」

少し近寄る。私が彼との間を空けて歩いてたから。

「僕が待ってて欲しいと願ってたのは、君だけだから…」

ぎゅっと肩を抱かれる。たったそれだけの事なのに、胸が苦しい…。

「…女の子を相手にしない僕をレオンは『SAMURAI』と呼んだ。孤独に修行ばかりしてるからだって…」

照れ笑いしてる。
『Only One』とか『NO…Girl Friend…』と言ってたレオンさんの言葉の意味はそれだったんだ…。

「彼に「彼女がいる」と話したら大げさに驚かれて、「会わせろ、どんな子か紹介しろ」とずっと言い続けだった」

ひたすら楽器作りしかしない坂本さんを見てたレオンさんには、彼の言うことが信用できなかったんだと思う。
レストランであれだけニコニコしてたのも、初めて見る彼の「Girl Friend」がもの珍しかったから……。

「……でも私…ひたすら帰りを待ってた訳じゃありません…」

三年間、何もせずに待ってた訳じゃない。苦しくて、待つのがイヤになって、忘れようともしたーーー。

「坂本さんが帰って来る前の月まで…他の人と付き合ってたし…」

あのホワイトデーの日、私のことを待っててくれたカズ君のことを思い出した。気持ちは入ってないと言って渡してくれたチョコの味は、今もずっと心の片隅に残っている…。

「…待ちきれなくて…約束も破りました…」

三年目に入ったばかりの冬の日、寂しさをこらえきれなくなって泣いた…。

思い出して、ぎゅっと手を握りしめる。言わなくてもいいと言った夏芽の言葉を押し潰したーーー。

「…柳さんを…一度だけ頼りました…坂本さんの帰りが…信じられなくなって…」

唇を噛みしめる。それが自分にとって初めての夜だとは口が裂けても言えやしない…。

「柳さんは坂本さんの親友なのに…」

ギュッと自分の腕を抱く。その様子に、彼の手が放れた。

「頼っちゃ…いけなかったのに…」

涙が潤む。隣にいる人の顔が、少しずつ固くなってく…。

「ごめんなさい…私は…最低です……」

俯く目から涙が零れ落ちそうだった。

こんな事を聞かされた後の、彼の気持ちを考えなかったーーー。
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