続 音の生まれる場所(下)
駅まで送り届けてくれた彼は「気をつけて…」とだけ言った…。

「ありがとうございました…」

頭を下げて改札を抜ける。
彼がどんな顔をしていたかなんて、見もせずに電車に飛び乗る。すぐにドアが閉まり、ホームから出て行く。背中を向けたまま動き出す電車の中で、やっと振り返ることができたのは次の駅に着いてからーーー。

(やっちゃったな…)

バカな自分を振り返る。夏芽の言葉通り、黙っておけばいいようなことを喋ってしまった…。

坂本さんはショックを受けたように、黙り込んでた。
私が柳さんを頼ったという言葉の意味を、きちんと理解したようだった…。

(バカなことした…)

あんな事さえ言わなかったら、今頃はまだ二人でいたと思うのに…。仲良く話し込んで、朝まで家に帰らなかったかもしれないのに…。


…でも…黙っておけなかった…。

自分を信じてくれる彼に、ありのままの自分を知って欲しかった。
弱くて…自信のない自分を…分かってて欲しかったーーー。


(柳さんは彼の親友なのに…これから先も顔を合わせる相手なのに…)

どうしてそこまで考えなかったんだろう。
私達は同じ楽団の仲間なのに…。


『Only One』『NO…Girl Friend…』

レオンさんの教えてくれたドイツでの彼は、ひたすら修行に打ち込む毎日を送ってた…。
そんな彼に比べて、私はなんて情けない生活をしてたんだろう…。

『ミス・バタフライ…』

そんな言葉で呼んでもらうような資格なんてない。一途に夫の帰りを待ち続け蝶々夫人のように、私は彼のことを待ってはいられなかった…。

悲しくて…全てが上手くいかなくなるような気がした。
電車の中で揺れ動く自分が不安定で、何もかも見失ってしまいそうだったーーー。
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