続 音の生まれる場所(下)
「ミス・バタフライ…Please!」
「あ…はい、いただきます…」

手を合わせるとレオンさんが指さした。

「ナムサン!」
「NO!」

その場でユリアさんに訂正されてる。青女に通いだしてから、日本語以外の事も学んでるらしい。

「ガッショウ!」

話を聞いてこっちを見る。なんだか食べにくいなぁ…。

「そうです…YES!」

答えると喜ぶ。その顔を見ると悪い気はしないけど…。

(予想外…って言うか…どうしてこんな事になるんだろ…)

グツグツ煮えてるスキヤキ前にして悩んでも仕方ない。それは分かってるけど…。

「SAM……」

ペラペラ…とレオンさんがドイツ語で何か話した。それを聞いて坂本さんの顔が固まる。
ユリアさんがレオンさんの口に指をあて、閉ざすようジャスチャーした。

(何…?今の…)

見ててあまり気分のいい感じじゃなかった。三人は私が見てたとは気づいてもいない様子で、その後も何も変わりなく食事していた…。




「Good Bye ミス・バタフライ…」

食事が済んでお別れの時、会った時と同じ調子で抱きすくめられた。背の高いレオンさんにそうされると、イヤでも思い出してしまう人がいる…。

「レオン…!」

彼が私を放すよう声をかけた。ふざけた様に笑みを浮かべ、レオンさんが私を放す。

「Jealousy…」
(ヤキモチ…⁉︎ )

そうなのかな…と彼を見る。目が合った瞬間、スッと外された。

(あれ…?)

今までになかった感じ。照れてるのとも違う。明らかに避けた…って感じ。

(なんで…?)

あんな話したから?
そんな気になってしまう。彼が私のことをホントに許してくれてるのかどうかも、分からなくなった…。


「あれ…ユリアさん…?」

レオンさんと一緒の方向に行く⁉︎

「今から歌劇団の人達と送別会あるんだって」

坂本さんが理由を話してくれる。

「そ…そうなんですか……」

てっきり三人でこの続きするのかと思ってたから、拍子抜けした。

「MAYUKO ゴキゲンヨウ!」

キチンと頭を下げてご挨拶。美女がすると余計にキレイだ…。

「ご…ごきげんよう…」

慣れない挨拶に緊張する。隣にいる人が小さく笑った。
去って行く二人の姿を見送る。
背の高いレオンさんとモデルの様なスタイルのユリアさん…お似合いだなぁ…。

(私と彼って…どんなふうに見えるんだろ…)

チラッと見上げる横顔。王子様みたいな顔した彼に胸がときめく。
こんなステキな人がドイツで修行してただけなんて、やっぱりどうしても思えない…。
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