続 音の生まれる場所(下)
(えっ…⁉︎ あれって誰なの…?)

坂本さんと並んで歩いてる女の人。ブロンズの髪に高い鼻。スラリと伸びた手足は細くもなく太くもなく。それより何より、そのスタイルのいいこと…。軽くDカップはあるよね…って感じの胸に、キュッと締まったウエスト。お尻は垂れてもなくて、まるでモデルのような後ろ姿。

(坂本さんの言ってた知り合い…?)

ドイツの人?どんな関係の人?もしかして、向こうで付き合ってた人…?


(あ…行っちゃう…!)

追いかけようと走り始めた。なのに、足がもつれて…。

(鼻炎薬のせい?足が思うように動かない…)

どんどん離れていく二人。楽し気に会話してる。聞いたことない言葉。きっとドイツ語だ…。

(…待って…!坂本さん…どこ行くの…⁉︎ )

思うように声が出ない。追いかけたいのに…呼び止めたいのに…

(やだ…!やっと会えたのに…!)


「坂本さん…!行かないで…!」

泣きそうな声で目が覚めた。涙が頬を伝ってる…。

「夢…⁉︎ 」

起き上がって目を擦った。あまりにハッキリし過ぎて、現実みたいだった…。

「良かった…夢で…」

胸を撫で下ろす。薬が効いてるせいか、鼻水は止まってる。でも、ひどい頭重。下を向いてると気分悪くなる。
顔を上げてさっきの夢を思い出す。一緒に歩いてた女性のことを考えてたら、ふと気づいた。

「…そう言えば、まだ聞いたことなかった…ドイツでの暮らし…」

仕事の取材で話を聞きに行った時は、楽器作りの話しかしなかったし、それもあまり言いたくなさ気で、言葉少なかった。

(どんな生活してたんだろう…付き合ってた人とか…いたのかな…)

いくら修行で行ってたからって3年間それだけとかないだろうし、私だってカズ君という幼馴染みと付き合ってたんだから、とやかくは言えない…。

(だけど、何も話さないってことは、やましい事があるから…?)

変に詮索してしまう。自分のことは棚に上げて。

「そうだ…さっき電話切っちゃったままだ…」

かけ直そうか…と電話を握る。だけど、さっきの夢が重く心にのしかかってて、やっぱりかけれない。

「やめとこう…今はメールで謝っとくだけにしよ…」

プチプチ…と短い文章送る。あれこれ聞きたいこと沢山だけど、それはいつでも聞けるから。

『さっき、電話切っちゃってゴメンなさい。くしゃみが止まらなくてかけ直しもできず…すみませんでした…』

硬い文面。まるで会社の人に送るみたい。

(付き合い始めて間もないし…そんなもんか…)

彼が帰国した後、いろいろ忙しくて、ゆっくり会う時間も取れなかった。楽団の練習以外で会ったのなんて、片手で足りるくらい。

「学生以下だね…私達って…」

自分で言ってて落ち込む。きっとこの頭重のせいだ。

「…喉乾いた…何か飲んでこよう」

ベッドから立ち上がり、ドアノブに手をかけた所で着信音が流れる。素早く画面を見ると…。

『気にしてません。お大事に』

「短っ…」

私以上に素っ気ない。坂本さんにとって、楽器以外のことはどうでもいいのかも…。
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