続 音の生まれる場所(下)
『貴方が日本から来たSAMURAI?』

そう声をかけるとジロリと怖い顔で睨まれた。

『違うよ…僕はSAMURAIなんかじゃない!』

怒った様に言い返す彼を見て、更に聞き返した。

『SAMURAIでもないのに、どうしてそんな顔でいられるの⁉︎ SAMURAIだから笑わないんでしょ⁉︎ 」

サムライの定義がもしあるのだとしたら、こんな感じだったのかもしれない。

《いつも仏頂面をしている。武士道という名の道を極める為に、わざと厳しい場所を選ぶ…》

(それに当てはめて考えると、ドイツで修行しようとしてる坂本さんは、正しく『SAMURAI』ってことになるんだろうけど…)

すごい勘違いに呆れる。坂本さんが修行に躓くのも、なんとなく分かる気がした…。


『SAMは工房の人達に拒まれてて…それを逆恨みしてた…。自分からは動こうともせず、話しかけるのさえ億劫がってた…』

ドイツへ来た理由を聞いたユリアさんは、彼にもっとスマイルを見せた方がいいとアドバイスした。

『女の子達にはいつもスマイルなのに…工房では怒ってる…。だから周りには勘違いされた…』

良い様には思ってもらえなかった…。でも、それはお互い相手を理解してなかったから…。

『長老に…SAMを仲間に入れてと頼んだ…。皆にも、もっと彼のことを分かってやって欲しい…とお願いした…』

父親の大事な友人の弟子。工房の中に入れて貰えなくても毎日通って来る彼の姿に、ユリアさん自身が感動した…。


「SAM…Realy『SAMURAI』!」
(本物のサムライね…)

苦笑してしまう。ここに彼がいたら、間違いなく赤面するところだ。

『……何度か頼んで、取りあえず中に入っても良いという許可は貰えた…。SAMにそう話したら…涙ぐんでた……』

手に取るように分かる彼の気持ち。その日をどんなに待ってたか……。


「…Why Cry?」

ユリアさんが目を差した。

「あっ…ごめんなさい…嬉しくて…」

その時のことを考えたら、自分の方が泣けてしまった。涙を拭う私を見て、ユリアさんがもう一度言った。

「『ヤマトナデシコ』…」
「…違いますって…」

ティッシュで目と鼻を拭く。それを見てハルシンが呟いた。

「ユリアさんにとって、真由子はそんなふうに見えるってことだよ」
「そうそう。真由は人一倍、情に厚いからな…」

二人の言葉に彼女が同意する。私はただ単に、彼の道が開けて嬉しかっただけだ…。

『それからはSAM…一生懸命、楽器作りを勉強してた…。いつ帰省しても、彼は工房で楽器ばかりを相手にしてて…。身体に悪いと言って誘わない限り、ほぼ毎晩遅くまで修行漬けの日々だった…』


(劇場に彼女と出かけていたのも、それでだったんだ…)

言葉足らずな彼の話をユリアさんの言葉が埋めていってくれる。そして、こんな事を言った…。
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