続 音の生まれる場所(下)
「…あのなぁ、ユリアさん…」

ハルが彼女に近づく。その服の裾をシンヤが引っ張る。

「もっさんは、真由子を泣かせたくないんだよ。だから優しくするんだ…」
「Why?ナゼ…⁉︎ 」
「それは…僕たちの大事な友人が十年前に亡くなったのを知ってるからだよ…」
「そいつ…真由のカレシだったんだ…」

驚いた彼女がこっちを振り向く。
マスクの下の唇を噛みしめる。それをウソだとはどうしても言えない…。


「真由子は…ホントはもっさんにドイツへ行って欲しくなかったと思うよ…」
「海外ではで命を落とすことだってあり得るからな…」
「治安も日本ほど良くないしね…」

分かったような事を二人が言う。でも、それはホントに心配してたこと…。

「だけど真由は…誰よりももっさんの楽器作りを応援してた」
「だから、もっさんも出来るだけ早く日本に帰ろうと思って必死だったんじゃないか⁉︎ 」
「夜中まで修行してたのもそのせい。それくらいずっと…会いたかったんだ…」

二人の言葉に合点がいくようにユリアさんが呟く。

「ソレデ…キュウニ……」


先生から電話があって、彼は突然帰ると言い出した。

『作りかけの部品を急ピッチで仕上げて…アパートの荷物を日本に送る手配をした…。何があったのかと聞いたら…』


「僕の大事な人が日本で大きな舞台に立つんだ。だから応援に行かないとーーー」


『今まで見たことのない…最高の笑顔だった…。いつも見る顔とは全く違ってた…』



「……MAYUKO…ウラシマヤ……」

「あっ分かった!『羨ましい』だっ‼︎」

ハルが叫んだ。

『誰にも見せない顔…MAYUKOにだけ見せてた…レオンに抱かれてた時…SAM少し怒ってた…。あんな彼…初めて見た…』

ふぃ…と顔を逸らされた。

(そうか…あれ、怒ってたんだ…)


「プッ…!!」
「くくく…っ」

ハルシンが笑い出す。

「何よ!二人とも!」

焦って声を上げた。

「だってどんだけ独占欲強いんだよ…」
「ハグくらいで頭来るなんて…よっぽどだぜ!」

相手は私なのに…って、どういう意味よ⁉︎

『SAM…いつもMAYUKOのこと考えてる…本物のヤマトナデシコだから…』

「なんだかかんだ言って肝座ってるからだろ?」
「ヘタなウソもつかないしね…」
「OH!ソレガ…シンズイ…!」
(違うってば…!)
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