続 音の生まれる場所(下)
バースデー
「ハッピーバースデー!真由!!」
朝8時。夏芽はノックもなく部屋に入ってきた。
「ナツ…おはよ…」
寝ぼけ眼で挨拶する。ベッドの側に来た彼女が、パサッと布団をはね避けた。
「おはよ…じゃなくてありがと…でしょ!ほら、お祝いの花束。それからプレゼントも連れて来たよ!」
「プレゼント…?」
夏芽の振り向く方向を見る。
ドアの側にいる人が、赤面してこっちを見てた。
「さ、坂本さんっ!」
ギョッとして自分の格好を見る。着崩れたパジャマにボサボサの頭。しかも寝起きで顔も洗ってない。
「きゃーっ‼︎ 」
慌てて布団の中に潜り込んだ。
「真由!どうしたの⁉︎ 」
夏芽が布団を引っ張る。それをなんとか押さえ込んで声を上げた。
「坂本さんと来るならそう言ってよ!こっちにも準備ってもんがあるから!」
こんなボサボサ頭にパジャマなんて最悪。昨夜は熱もあってお風呂にも入れてないのに…。
「そんなの気にしなくていいって!真由は病人なんだから!」
笑いながら布団を剥がそうとする。
「…と、とにかく一回出てって!着替えたいから!」
「はいはい。分かった。出てく。お花、花瓶に生けて来るから」
手を放し夏芽が立ち上がる。パタン…とドアの閉まる音を聞いて、ほっとして顔を出した。
「ぎゃっ!」
またしても布団を被る。
「さ、坂本さん、なんでいるんですか⁉︎ 出てって下さい!そこにいたら着替えられません!」
(てっきり夏芽と一緒に出たのかと思ってたのに、なんでよー…)
「あ…でも、別にそのままでいいんじゃない?風邪引いてるんだし…」
けろっとした感じでいる。
「ジョーダンじゃありません!イヤです!風邪引いてても!」
デリカシーのないこと言う。二人してやってらんないよ。
「いいって。それより顔見せて」
側に近づいて来る。足音聞きながらドキドキ胸が鳴る。ビックリしたのと嬉しいのとで全然落ち着かない。
「真由子…」
トントンと布団の上から叩く。
「出てきて。でないと無理矢理起こされた意味ないよ」
そう言われてハッとする。
坂本さんは朝が苦手で、ちょっとやそっとじゃ起きれない人だった。
そろ…と頭の先だけ出す。それを見て吹き出された。
「それじゃあカメと同じだよ。ちゃんと出てきて。こっち向いて」
優しく布団剥がそうとする。困りながらも、とりあえず頭を全部出して彼の方を向いた。
嬉しそうな顔して笑ってる。こんな早くに起こされたのに、イヤな顔一つしてない…。
「誕生日おめでとう…と言っても、今朝知ったんだけど…」
だから何も用意できてない…って。当たり前だ。
「何もいりません。会えただけで十分…」
自分だって、さっきの夏芽の言葉で気づいたくらいだもん。贅沢言わない。
「ありがとう……それよりレオンさん、無事帰国されました?」
「うん…『ミス・バタフライによろしく』って言ってたよ」
思い出したように教えてくれる。青い目をした彼の友人を思い浮かべた。
「それなんですけど…坂本さんのドイツのお知り合いは、やっぱりヘンな人ばかりですよ…。昨日はユリアさんが、私のこと『ヤマトナデシコ』だと言い張るし…困ってしまいます…」
いろいろ話聞けたけど、結局、ヤマトナデシコだけは分かってもらえなかった。
「あー…それはきっと僕がテキトーにユリアの質問に答えたからかな…」
まずかったな…って顔してる。
「質問?…どんなのですか?」
「ん?…『どうして特定の人と付き合わないのか?』と聞かれて…」
話しにくそうに始まるドイツでの日々。
工房の中に入れてもらえなかった頃、女性と遊んでばかりいた時のことーーー。
朝8時。夏芽はノックもなく部屋に入ってきた。
「ナツ…おはよ…」
寝ぼけ眼で挨拶する。ベッドの側に来た彼女が、パサッと布団をはね避けた。
「おはよ…じゃなくてありがと…でしょ!ほら、お祝いの花束。それからプレゼントも連れて来たよ!」
「プレゼント…?」
夏芽の振り向く方向を見る。
ドアの側にいる人が、赤面してこっちを見てた。
「さ、坂本さんっ!」
ギョッとして自分の格好を見る。着崩れたパジャマにボサボサの頭。しかも寝起きで顔も洗ってない。
「きゃーっ‼︎ 」
慌てて布団の中に潜り込んだ。
「真由!どうしたの⁉︎ 」
夏芽が布団を引っ張る。それをなんとか押さえ込んで声を上げた。
「坂本さんと来るならそう言ってよ!こっちにも準備ってもんがあるから!」
こんなボサボサ頭にパジャマなんて最悪。昨夜は熱もあってお風呂にも入れてないのに…。
「そんなの気にしなくていいって!真由は病人なんだから!」
笑いながら布団を剥がそうとする。
「…と、とにかく一回出てって!着替えたいから!」
「はいはい。分かった。出てく。お花、花瓶に生けて来るから」
手を放し夏芽が立ち上がる。パタン…とドアの閉まる音を聞いて、ほっとして顔を出した。
「ぎゃっ!」
またしても布団を被る。
「さ、坂本さん、なんでいるんですか⁉︎ 出てって下さい!そこにいたら着替えられません!」
(てっきり夏芽と一緒に出たのかと思ってたのに、なんでよー…)
「あ…でも、別にそのままでいいんじゃない?風邪引いてるんだし…」
けろっとした感じでいる。
「ジョーダンじゃありません!イヤです!風邪引いてても!」
デリカシーのないこと言う。二人してやってらんないよ。
「いいって。それより顔見せて」
側に近づいて来る。足音聞きながらドキドキ胸が鳴る。ビックリしたのと嬉しいのとで全然落ち着かない。
「真由子…」
トントンと布団の上から叩く。
「出てきて。でないと無理矢理起こされた意味ないよ」
そう言われてハッとする。
坂本さんは朝が苦手で、ちょっとやそっとじゃ起きれない人だった。
そろ…と頭の先だけ出す。それを見て吹き出された。
「それじゃあカメと同じだよ。ちゃんと出てきて。こっち向いて」
優しく布団剥がそうとする。困りながらも、とりあえず頭を全部出して彼の方を向いた。
嬉しそうな顔して笑ってる。こんな早くに起こされたのに、イヤな顔一つしてない…。
「誕生日おめでとう…と言っても、今朝知ったんだけど…」
だから何も用意できてない…って。当たり前だ。
「何もいりません。会えただけで十分…」
自分だって、さっきの夏芽の言葉で気づいたくらいだもん。贅沢言わない。
「ありがとう……それよりレオンさん、無事帰国されました?」
「うん…『ミス・バタフライによろしく』って言ってたよ」
思い出したように教えてくれる。青い目をした彼の友人を思い浮かべた。
「それなんですけど…坂本さんのドイツのお知り合いは、やっぱりヘンな人ばかりですよ…。昨日はユリアさんが、私のこと『ヤマトナデシコ』だと言い張るし…困ってしまいます…」
いろいろ話聞けたけど、結局、ヤマトナデシコだけは分かってもらえなかった。
「あー…それはきっと僕がテキトーにユリアの質問に答えたからかな…」
まずかったな…って顔してる。
「質問?…どんなのですか?」
「ん?…『どうして特定の人と付き合わないのか?』と聞かれて…」
話しにくそうに始まるドイツでの日々。
工房の中に入れてもらえなかった頃、女性と遊んでばかりいた時のことーーー。