続 音の生まれる場所(下)
「私達が円になった特別な日だからよ」
「えん?」

頭の中で漢字に置き換える。縁…園…円……

「あっ!あの丸い円⁉︎ 」
「そうよ。夫婦二人じゃ円は作れないけど、三人になったら円は作れるでしょ?家族になるっていうのは、そういう事だから…」

ケーキを食べ終えて、父が膝の上で手を組む。感慨に浸ってる感じ。胸が少し熱くなった。

「真由が生まれた朝、二人で決めたの。この子はいつかお嫁に行く身だから、せめて誕生日だけはいつも一緒に祝ってあげようって」

お嫁に行ったら、自分の家族とお祝いすることになる。それを引き継ぐまでの大切な時間、共に過ごす意味で始めたそうだ。

「なんかスゴい…うちの親だったらそんなの考えもしない!」

夏芽が声を上げる。その横で坂本さんまでもが頷いた。

「真由には友達と一緒にお祝いしたい時期もあったと思うけど、今日までよく付き合ってくれて…お父さんも私も感謝してるの」

単に親のワガママだからね…と呟く。でも、おかげで私は毎年幸せだった…。

「…感謝なんて…」

私の為に…と準備してくれたのはいつも両親。ケーキもプレゼントも全部、真心が込もってた…。

「祝ってもらってたのは…私なのに…」

じわっと涙が滲む。膝の上に乗せたケーキに一粒落ちる。それを見て、母がティッシュを差し出した。

「美味しいケーキがしょっぱくなるから、食べてしまいなさい。食べたら好きに過ごしていいから」

その言葉にきょとん…となる。これまでは一日中家にいなさい…だったのに。
信じられなくて父を見た。紅茶のカップ片手に無言でいる。でも、反対してるふうでもない。


「…だったら…」

坂本さんが声を発した。

「真由子さんをお借りしていいですか?僕、何もプレゼント用意して来なかったので、ちょっと連れて行きたい場所があって…」

緊張気味に話す。父の顔を見ると、こくこく頷いてた。

「どうぞ。どこへでも連れてって下さい」

母が父の代わりに答える。ポカン…として彼を見た。照れくさそうに微笑んでる。
彼が私を連れて行きたい場所って、一体どこ…?
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