続 音の生まれる場所(下)
「その頃、ブラスから離れてて…坂本さんのトランペットの演奏を聴いて、元気をもらえた…と言うか、失くしてた音を取り戻したと言うか…そんな感じで…だから恩人なんです!彼は私の…」

支離滅裂。お母さんの顔が固まる。どうしよ…何て説明すればいい⁉︎


「……そんなふうに誉めて下さって…ありがとう…」

ホッとしたように微笑んだ。表情柔らかくなる。良かった…分かってもらえた…?

「あの子ね…小さい頃体が弱くて…外遊びよりも家遊びが好きな子で、内気で引っ込み思案だったから親としては心配でね。なんとか度胸をつけさせたくて、ピアノを習わせ始めたんだけど…途中からトランペット一筋になっちゃって…」

クスクス…と面白そうに笑う。坂本さんのお母さんって明るくて楽しい人みたい。

「折角音大出て、いいトコの楽団に就職しかけてたのに蹴っちゃって。今の楽団に入って、先生の弟子になって…」

いろいろと思い出しながら話してくれる。優しい表情。坂本さんとよく似てる…。

「ドイツに渡って客演してた頃は、時々連絡もあったけど…工房で働き始めてからは、何も言ってこなくなって…」

話が途切れる。お母さんの顔から笑みが消えていたーーー。

「いつの頃だったか、『日本に帰りたい…』って一度だけ言ってきたことがあって…」

きゅっと胸が締めつけられる。きっと、工房に入れてもらえなかった頃だ…。

「『帰りたかったら帰って来なさい』って答えた。でも、帰って来なかった。…多分弱音を吐きたかっただけなのね…」

辛かった修行の日々。道が開けるまでに、坂本さんがどんな思いでドイツにいたのか、私はまだまだ理解してない……。

「修行を終えてドイツから帰る前日にね、嬉しそうな声で連絡があったのよ。『母さん、日本に帰るから!楽器作れたから!』って」

誇らしそうな顔。坂本さんの成功を心から喜んでる。

「…時々ガンコで融通も効かないとこあるけど、優しくていい子だから、これからも仲良くしてやって。私の知る限り、紹介してくれた彼女は貴女が初めてだから」

さっき照れてた坂本さんを思い出した。もしかしてそうなのかな…と思ったけど、やっぱり……。

「私こそ…坂本さんにはずっと仲良くしてもらいたいです…」

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