続 音の生まれる場所(下)
声に似た音…。4年前、取材記事の中で、「音は奏でるものじゃなく語るもの」だと言っていた。
あの言葉通り、彼は今も語り続けているーーー。
音が止むと、お母さんが走り寄った。小さい子供みたいに坂本さんを抱き締める。
「よく頑張ったね…」と、褒め称えてるみたいな仕草。彼自身も嬉しそうだった。
(…お母さん、きっとドイツで苦労してるって分かってたんだ…だから帰ってきなさい…って、わざと言ったんだ…)
ある意味試したんだと思う。楽器作りを一生、やっていけるかどうか。
(スゴいな…そんなの真似できない…)
ドイツで女性達と遊び暮らしてたと聞いて、支えてやれなかった自分を悔いた。彼がどこで何をしてても、じっと待ってたお母さんとは違う。
(心狭いな…私…)
ユリアさんのことだってそう。隣に住んでいつでもここへ顔出せるからって、ヘンに意識しちゃって。
そんな事がもしあっても、彼が彼女とどうにかなるなんて、あり得ないのに…。
何もできないから自信がない。
私には楽器作りをしてる彼の姿を見守る以外、何もできないから…。
「…真由子さん?」
お母さんが目の前に来て声をかけた。ぼんやり考え込んでたのを止め、立ち上がる。
「は…はい!」
「私帰るから、また会いしましょ。今度、うちに遊びに来て。お父さんにも話しておくから」
「えっ…」
(お父さん…⁉︎)
思わず身構える。坂本さんのお父さんに会うことなんて、全く考えてもなかった。
「母さん、また大げさに話すつもりじゃないだろうな!」
彼は平然としてる。私をお父さんに紹介するの、別にイヤじゃないみたい。
「話すに決まってるじゃない!理ちゃんが初めて紹介してくれた彼女よ!自慢しなくちゃ!」
「いや、だから、それが困るんだって!あくまでも普通に!いい⁉︎ 」
言い聞かせるように念押し。どうやらお母さんは坂本さんのこととなると、度が過ぎるらしい。
「分かったわよ。じゃあ、また来るから!」
「来なくていいよ!」
合い言葉みたいに声かけ合ってる。面白い親子。
玄関口でお母さんを見送る。折角会いに来てくれたのに、もう帰しちゃって良かったのかな…。
確かめるように彼を見る。やれやれ…って顔。嫌いって言うより、むしろ困ってるんだ…。
「…悪かったね…」
ホッとして振り向かれた。
ドキッ。
「な、何が⁉︎ 」
玄関口狭いから、ちょっと戸惑った。
「母さん。急に訪ねて来るなんて思わなかったから…」
いつも山のようにお礼するから気になったんだ…と話す。坂本さんのお母さんは、それくらい水野先生に感謝してる。
「全然。坂本さんの小さい頃からの思い出話とかしてくれて…とても楽しかったですよ」
彼のこと教えて…って言われたのに、結局、私が教えてもらったようなもんだった…。
「いいお母さんですね。明るくて楽しくて…坂本さんのこと、とても自慢に思ってるみたい。信頼もしてるし…きっと、一番の味方ですね!」
敵わない所ばかり見せてもらった。できないことばかりで胸が痛む。この所の私は自信がなくて、すぐに落ち込む。
今日もお母さんが偉大過ぎて、自分がとても小さく思えた。
「そうかもしれないけど…でも、加減ってもんがないのが悩みなんだよ…」
奥に向かって歩き出す。その背中を見つめながら、自分が彼に何をしてやれるだろう…って考えた。
ロビーに戻り、ペットを手にする。息を吹き入れた彼が、こっちを振り向いた。
「誕生日のお祝いに一曲演奏するから」
「うん…」
私だけの為に語ってくれるんだと思うとワクワクする。
でも、不思議と心から喜べない…。
私は皆みたいに、彼に何もしてやれてないから…。
緊張ぎみに吹き始めた曲。驚いて、思わず耳を疑ったーーー。
あの言葉通り、彼は今も語り続けているーーー。
音が止むと、お母さんが走り寄った。小さい子供みたいに坂本さんを抱き締める。
「よく頑張ったね…」と、褒め称えてるみたいな仕草。彼自身も嬉しそうだった。
(…お母さん、きっとドイツで苦労してるって分かってたんだ…だから帰ってきなさい…って、わざと言ったんだ…)
ある意味試したんだと思う。楽器作りを一生、やっていけるかどうか。
(スゴいな…そんなの真似できない…)
ドイツで女性達と遊び暮らしてたと聞いて、支えてやれなかった自分を悔いた。彼がどこで何をしてても、じっと待ってたお母さんとは違う。
(心狭いな…私…)
ユリアさんのことだってそう。隣に住んでいつでもここへ顔出せるからって、ヘンに意識しちゃって。
そんな事がもしあっても、彼が彼女とどうにかなるなんて、あり得ないのに…。
何もできないから自信がない。
私には楽器作りをしてる彼の姿を見守る以外、何もできないから…。
「…真由子さん?」
お母さんが目の前に来て声をかけた。ぼんやり考え込んでたのを止め、立ち上がる。
「は…はい!」
「私帰るから、また会いしましょ。今度、うちに遊びに来て。お父さんにも話しておくから」
「えっ…」
(お父さん…⁉︎)
思わず身構える。坂本さんのお父さんに会うことなんて、全く考えてもなかった。
「母さん、また大げさに話すつもりじゃないだろうな!」
彼は平然としてる。私をお父さんに紹介するの、別にイヤじゃないみたい。
「話すに決まってるじゃない!理ちゃんが初めて紹介してくれた彼女よ!自慢しなくちゃ!」
「いや、だから、それが困るんだって!あくまでも普通に!いい⁉︎ 」
言い聞かせるように念押し。どうやらお母さんは坂本さんのこととなると、度が過ぎるらしい。
「分かったわよ。じゃあ、また来るから!」
「来なくていいよ!」
合い言葉みたいに声かけ合ってる。面白い親子。
玄関口でお母さんを見送る。折角会いに来てくれたのに、もう帰しちゃって良かったのかな…。
確かめるように彼を見る。やれやれ…って顔。嫌いって言うより、むしろ困ってるんだ…。
「…悪かったね…」
ホッとして振り向かれた。
ドキッ。
「な、何が⁉︎ 」
玄関口狭いから、ちょっと戸惑った。
「母さん。急に訪ねて来るなんて思わなかったから…」
いつも山のようにお礼するから気になったんだ…と話す。坂本さんのお母さんは、それくらい水野先生に感謝してる。
「全然。坂本さんの小さい頃からの思い出話とかしてくれて…とても楽しかったですよ」
彼のこと教えて…って言われたのに、結局、私が教えてもらったようなもんだった…。
「いいお母さんですね。明るくて楽しくて…坂本さんのこと、とても自慢に思ってるみたい。信頼もしてるし…きっと、一番の味方ですね!」
敵わない所ばかり見せてもらった。できないことばかりで胸が痛む。この所の私は自信がなくて、すぐに落ち込む。
今日もお母さんが偉大過ぎて、自分がとても小さく思えた。
「そうかもしれないけど…でも、加減ってもんがないのが悩みなんだよ…」
奥に向かって歩き出す。その背中を見つめながら、自分が彼に何をしてやれるだろう…って考えた。
ロビーに戻り、ペットを手にする。息を吹き入れた彼が、こっちを振り向いた。
「誕生日のお祝いに一曲演奏するから」
「うん…」
私だけの為に語ってくれるんだと思うとワクワクする。
でも、不思議と心から喜べない…。
私は皆みたいに、彼に何もしてやれてないから…。
緊張ぎみに吹き始めた曲。驚いて、思わず耳を疑ったーーー。