続 音の生まれる場所(下)
6月。最初の日曜日、理さんの実家へ行った。
公務員一家だと聞いてたからスゴく緊張してたのに、お父さんもお兄さん夫婦も、皆気さくで楽しい人達だった。
「オサの彼女が来るって言うから、母さん朝からはりきり過ぎてさ。見てくれよ、これだけの料理、一体誰が食べるんだよ」
お兄さんが呆れる。奥さんを初めて家に連れて来た時も、かなりの量が並んだらしい。
「加減しとけって言ったのに…」
彼も溜め息をつく。でも、どれも美味しそう。
「母さんはオサに甘いからな…小さい頃から好きな事ばっかりさせて、我が儘いっぱいで育ってるから…苦労するよ、真由子さん」
穏やかな口調のお父さんが教えてくれる。声と口元が彼によく似てる。
「大丈夫です。私もワガママですから」
地を出すな…と言われてた来たけど、この家族には自分を見せても大丈夫だと思った。
「いいじゃない。我が儘で。我が家は誰もが同じでしょ!」
「何言ってるんだ。一番の我が儘はお前だよ!」
「そうだよ!何度言っても突然工房に押しかけて来るし」
「程々にしとけって言われても、右から左だろ⁉︎ 」
男性三人に言い返される。でも、怯まないのがお母さん。
「あんた達には料理食べさせないわ!私と彩乃(あやの)さんと真由子さんだけで食べる!」
お兄さんの奥さんと顔見合わせた。お母さんが元気いっぱいな理由が、なんとなく分かった。
「それは困る!ビールが不味い!」
「突然押しかけられても、僕は一向に構わないから!」
「言われた事は、右から左で止まってるんだよな⁉︎ 」
三人の態度がコロッと変わる。お母さんの手料理がそれだけ美味しいんだ。
「だったら特別に許可しようかな。今日は真由子さんも初めてだし」
ワイワイ言いながら乾杯する。
料理取り分けたり、談笑したりして過ごす時間。
亡くなった人とはできなかった未来へ向けて、一歩ずつ進んでく。
「真由子さん、美味しい?」
「はい。とっても!これ、どうやって作るんですか⁉︎ 」
「後でレシピ見せたげるわ」
大切な人のお母さんの味だから覚えておきたい。小さな丸いおにぎりと一緒に、彼に食べてもらいたいから…。
「見せるのいいけど、程々にしとけよ。レシピ山のようにあるから」
苦言を呈される。でも、お母さんはやっぱり怯まない。
「そんな事言うと、理ちゃんの嫌いな物ばかり教えるわよ!」
「いや…それは困るし…」
彼が慌てる。やっぱりお母さんには敵わないんだ。
「ふふふ…」
思わず笑っちゃう。
「真由子…」
彼が照れる。周囲が笑う。これ以上にない幸せな時間。
笑顔の溢れる場所。
彼といる場所がいつもそうである様に、私も笑っていなくちゃ…!
改めて知る。彼の言葉の意味。
この明るくて賑やかな環境で育ったからこそ、彼の音は自由で温かくて、力強いんだーーー。
一つ一つ、分かる事が増えていく。
小さなことを積み重ねて、未来に繋がってく。
それが何よりの幸せなんだって…私は誰よりも深く知ってる……。
「真由子さん、沢山食べてね。余ったら持って帰っていいからね!」
「母さん…だからそれが困るって…!」
彼が止める。お母さんが言い返す。これから先、この二人の問答をきっと何回も見ることになる。
……あったかい家族。
自分の家族も、彼の家族も大好き。
いつか私達も…そんな家族を作りたいね……理さん…。
公務員一家だと聞いてたからスゴく緊張してたのに、お父さんもお兄さん夫婦も、皆気さくで楽しい人達だった。
「オサの彼女が来るって言うから、母さん朝からはりきり過ぎてさ。見てくれよ、これだけの料理、一体誰が食べるんだよ」
お兄さんが呆れる。奥さんを初めて家に連れて来た時も、かなりの量が並んだらしい。
「加減しとけって言ったのに…」
彼も溜め息をつく。でも、どれも美味しそう。
「母さんはオサに甘いからな…小さい頃から好きな事ばっかりさせて、我が儘いっぱいで育ってるから…苦労するよ、真由子さん」
穏やかな口調のお父さんが教えてくれる。声と口元が彼によく似てる。
「大丈夫です。私もワガママですから」
地を出すな…と言われてた来たけど、この家族には自分を見せても大丈夫だと思った。
「いいじゃない。我が儘で。我が家は誰もが同じでしょ!」
「何言ってるんだ。一番の我が儘はお前だよ!」
「そうだよ!何度言っても突然工房に押しかけて来るし」
「程々にしとけって言われても、右から左だろ⁉︎ 」
男性三人に言い返される。でも、怯まないのがお母さん。
「あんた達には料理食べさせないわ!私と彩乃(あやの)さんと真由子さんだけで食べる!」
お兄さんの奥さんと顔見合わせた。お母さんが元気いっぱいな理由が、なんとなく分かった。
「それは困る!ビールが不味い!」
「突然押しかけられても、僕は一向に構わないから!」
「言われた事は、右から左で止まってるんだよな⁉︎ 」
三人の態度がコロッと変わる。お母さんの手料理がそれだけ美味しいんだ。
「だったら特別に許可しようかな。今日は真由子さんも初めてだし」
ワイワイ言いながら乾杯する。
料理取り分けたり、談笑したりして過ごす時間。
亡くなった人とはできなかった未来へ向けて、一歩ずつ進んでく。
「真由子さん、美味しい?」
「はい。とっても!これ、どうやって作るんですか⁉︎ 」
「後でレシピ見せたげるわ」
大切な人のお母さんの味だから覚えておきたい。小さな丸いおにぎりと一緒に、彼に食べてもらいたいから…。
「見せるのいいけど、程々にしとけよ。レシピ山のようにあるから」
苦言を呈される。でも、お母さんはやっぱり怯まない。
「そんな事言うと、理ちゃんの嫌いな物ばかり教えるわよ!」
「いや…それは困るし…」
彼が慌てる。やっぱりお母さんには敵わないんだ。
「ふふふ…」
思わず笑っちゃう。
「真由子…」
彼が照れる。周囲が笑う。これ以上にない幸せな時間。
笑顔の溢れる場所。
彼といる場所がいつもそうである様に、私も笑っていなくちゃ…!
改めて知る。彼の言葉の意味。
この明るくて賑やかな環境で育ったからこそ、彼の音は自由で温かくて、力強いんだーーー。
一つ一つ、分かる事が増えていく。
小さなことを積み重ねて、未来に繋がってく。
それが何よりの幸せなんだって…私は誰よりも深く知ってる……。
「真由子さん、沢山食べてね。余ったら持って帰っていいからね!」
「母さん…だからそれが困るって…!」
彼が止める。お母さんが言い返す。これから先、この二人の問答をきっと何回も見ることになる。
……あったかい家族。
自分の家族も、彼の家族も大好き。
いつか私達も…そんな家族を作りたいね……理さん…。