続 音の生まれる場所(下)
電話かけちゃダメかな…と時計見る。私は休憩時間でも、坂本さんは休みじゃないかもしれない…。それに今日は、知り合いが訪ねて来るって言ってた。

「知り合いって誰だろ…もう会ってるのかな…」

夢の中の女性が思い浮かぶ。まさかあんなモデルみたいな人と会うとは思えないけど、どんな関係の人だろう。

「今度、会ったら聞いてみよう。知り合いって誰か。それと、ドイツでの生活のことも…」

知らない事が沢山ある。いっぱい話さないといけないこともある。
カズ君のことや柳さんのこと…夏芽は話す必要ないって言ったけど、やっぱり黙っておくのは心苦しい。

(特に柳さんは彼の親友だから…)

お互いに信頼し合ってる。それを見てきてるから胸が痛い。
でも、隠していたくない。話してしまって彼に謝りたい。「約束…守れなくてゴメンなさい…」って。

「これも私のワガママなのかな…」

薬飲みながら考える。自分としては正直でいたいだけなんだけど、それも相手にとっては聞きたくないことかも…。

「もう少し…坂本さんのことが分かってからにしよ…失敗したくないし…」

やっと想いが叶ったばかりだから大事にしたい。彼のこともまだよく分からないから…。
一応自分なりに決着つけて仕事に戻る。
花粉症と戦いながら仕事を終えて、ホッと息をつく。


「お先に失礼します」

遅くまで残る編集者たちに挨拶して会社を出る。駅に向かいながら考えるのは彼のこと。今頃どこで何をしてるのか、その辺で待っててくれないかな…って、そんな事ばかり。

「あんな素っ気ないメールしかくれない人、いる訳ないか…」

都合よすぎる考えに呆れる。だけど視線は探してる。王子様みたいな顔した彼の存在を……。



「あっ…!」

駅舎の前に見たことある人が立ってる。

( あれって…どう見ても坂本さんよね…?私のこと心配して会いに来てくれたの…?)

夢みたいだけど、ホンモノ⁉︎ 錯覚じゃないよね⁉︎
痒みのある目を擦りながら確かめる。…間違いない。確かに彼だ。

(ウレシー!会いに来てくれたんだー!)

喜び勇んで向かおうとしたら、彼が手を上げる。視線は私の方を向いてない。改札口の方。

(えっ⁉︎ どこ見てるの…?)

彼が見てる方を向く。改札口から出て来る人達に混じって現れた女性。

「あれって…」

心臓が大きく震えた。ブロンズの長い髪に細い手足。メリハリのあるボディラインにモデルのような整った顔立ち。

「似てる…夢で見た人に…」

満面の笑みで彼に駆け寄り抱きついてる。それに応じて彼もハグする。それから楽しそうに始まる会話。二人きりの世界に入ってて、お互いの顔しか見ていない。


「…どういうことなの… 」

離れている私には気づきもしない。誰も入れないような雰囲気の中、湧き上がる疑問。

(誰なの…一体…)

唖然として見つめる。

(あ…歩き出した。どこ行くんだろ…)

慌てて追いかけようとする。でも、人混みに押されて、思うように進めない。
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