センチメンタル・スウィングス
「あっちゃん、これやる」
「え?まだ1本しか吸ってないのに。いいんですかぁ?」
「いーの。俺もう卒煙したから」
「始めたばかりだろ」
「しかも何日持つか分からないのに」という兄と私の呟きなんて気にも留めずに、和泉さんはウェイトレスの“あっちゃん”に満面の笑みを浮かべて、持っていたタバコをあげた。

ライターまで彼女にあげたのは、和泉さんの硬い決意の表れなのかな。
でも・・・使い捨てとはいえ、相手の手元に残るものをあげた和泉さんにとって、その行為は、数多い女友だちの一人が、たまたまそこにいたからついでにあげた、みたいな、いつもの軽いノリで。
だからそこには特に深い意味はなくて・・・。

胸の内がモヤッとしてしまったのは、私が深く考え過ぎてるから・・・だよね。
そうよ。だから仕事以外で、和泉さんに関わる必要はないんだ。

屈託のない笑顔を“あっちゃん”に向けている和泉さんを見ながら、私はそんなことを考えていた。

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