センチメンタル・スウィングス
「彼とは同じ会社だったんですけど、“社長の娘と婚約破棄したから”なんてくだらない理由で、会社を辞めてほしくなかった。彼は仕事がデキる営業マンだし」
「じゃあそいつはまだ、親父さんとこの会社に勤めてんのか」と和泉さんに聞かれた私は、頷くことで肯定した。

「元々私は結婚を機に、仕事を辞めることにしてたから、表向きは私が一方的に婚約を破棄したことにしたんです。父と兄には、学さんが会社に居づらい思いをさせないように計らってもらって。病気のことも、社内の人たちにはもちろん内緒にして。学さんにはそれだけお願いして、会社辞めて、治療に専念して・・・。何年も仕事してない私が、ハッピー婚活所にコネ入社して気晴らしに仕事してると、事務所のみんなが思ってるのは、私も知ってます。特に須賀さんと脇田さんは、異動で婚活所勤務になったから、婚約破棄のこと、知ってるし」
「“表向きは”な。おまえはそれでいいのか?」
「いいんです。私は手を抜いて、いい加減な気持ちで仕事をしているつもりはないけど・・・人と深くかかわることは、もうしたくないんです。だから恋愛もしない。結婚も」

だから、和泉さんと私の間に、恋愛は始まってないんだと、心の中で改めて確認した。


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