らぶ・すいっち
「まぁ、いい。今後もよき元カレという位置づけでよろしく」
そういって笑う合田くんは、思い出どおりの彼だった。
高校の頃の記憶に残る、彼の笑顔。それを見て、懐かしさとともに鼻の奥がツンと痛んだ。
合田くんは、相変わらずだ。
スマートに事を運んでいるように見えて、実は不器用な人。
それを私は知っている。元彼女だからわかることなのかもしれない。
記憶は遠くて、かすれてしまいそうだけど、それでも彼への恋心は確かにあのときはあった。
それだけは言える。
「うん……」
思い出の中の彼に告げるように、私は小さく頷いた。
切ない気持ちを抱きしめながら、もう会うことはないであろう合田くんに背を向けて車らから降りた。
私が車から離れたのを見たあと、合田くんは車をゆっくりと発進させる。
これが最後だ。
私は彼との思い出とともに、車が闇夜に消えるまで見続けた。
空には下弦の月。
切れて落ちてきそうなほど細く頼りない光を見て、私の脳裏に浮かんだのは、卵焼きが美味くないと顔を歪めた先生の顔だった。