らぶ・すいっち
逃げられない!!
「ど、ど、どうして……」
午前八時少し前。私のアパートまで迎えに来てくれるという英子先生を待つため、アパートの前に立っていたのだが、そこに現れた人物を見て驚きのあまりカバンを落としてしまった。
「カバンが落ちましたよ?」
「……」
声をかけられたが、返答などできるわけもない。もちろん身動きすることもできないほど動揺している私にバックを拾うことなどできない。
わなわなと動く口元だけ。あとはピクリとも動かない私に、その人物は口元に笑みを浮かべ、私のカバンを拾ってくれた。
埃を軽く落とし、私にカバンを差し出してくれる。
「ほら、どうぞ」
「あ、ありがとう……ございます」
差し出されたカバンを、震える手で受け取る。そのカバンをまじまじと見つめたあと、目の前の人物に視線を投げた。
だが、何も言い出さない私に、その人は首を傾げた。
「どうしましたか? ああ、挨拶がまだでしたね」
「えっと、その……」
「おはようございます、須藤さん」
「おはよう……ご、ざいま……す」
目を細めたくなるほど、キラキラとした笑顔。清々しい朝にぴったりすぎるほど、爽やかな表情。あまりに絵になりすぎていて直視するのがツライ。逃げ出したくなるのは私だけだろうか。