らぶ・すいっち
(たぶん、私だけかもしれないなぁ……)
誰もが振り返るほどキレイな顔立ち、そして立ち姿。テレビの画面に映る彼の姿は、芸能人だと言ってもいいほど神々しいオーラを放つ。
出版した料理本は、どれもこれも飛ぶように売れる。
彼が目的で美馬クッキングスクールに入りたいと門戸を叩く女子は今も絶えないらしい。
その人の名は、美馬順平。今、私の目の前で目を細めてしまいたくなるほど、キラッキラの笑顔をしている人物だ。
「どうして……順平先生が? 今日は英子先生は?」
順平先生に聞いてはみたが、すぐに思い直す。ポンと手を叩き、私は順平先生の傍を離れ、車の後部座席を覗き込んだ。
たぶん英子先生は車に乗っているはずだ。
「あれ?」
だがしかし、何度目を懲らしてみても英子先生の姿形は見えない。
「お祖母さんなら、いませんよ」
「え!?」
あ然として後ろを振り返ると、すぐ私の近くに順平先生が立っていて思わずおののいた。
「わっ!」
「危ない!」
体勢を崩した私だったが、すぐさま順平先生が助けてくれたので転ぶことは防ぐことができた。