らぶ・すいっち




「順平先生、ありがとうございます」
「いいえ」
「……」
「……」


 沈黙が続く。私は無言のまま視線で“腕を放してください”と訴えたつもりでいたのだが、順平先生には伝わらなかったのか。

 私はドキドキしすぎる鼓動を抑えながら、無理やり笑みを浮かべ、順平先生の顔を見上げた。


「あのですね、順平先生」
「なんですか、須藤さん」
「そろそろ離してくれませんか?」
「なぜですか?」
「なぜって……」


 絶句。まさに言葉が出てこない。

 確かに順平先生に助けてもらった。だからこそ、転ぶことは未然に防ぐことができた。それはとても感謝している。
 だがしかし、私はもう一人で立っていられるのだし、転ぶこともないだろう。

 お礼もきちんと言ったし、もう腕の中から解放してくれてもいいはずだ。

 いまだに私を腕の中にしまいこんでいる順平先生を睨み付けた。
 しかし、私と視線が合っても、にっこりと笑うだけ。私を解放するつもりはなさそうだ。


「とにかく離してください。講演会に遅れてしまいませんか?」


 私は、もがきながら順平先生に訴える。
 その言葉を聞いて、やっと順平先生は私から離れてくれた。

 
(ダ、ダメだ。心臓が痛い。苦しい……ドクンドクンいってるよ)


 最初は頬だけだった。しかし、今は身体中が熱くなっている。裸になれば、全身真っ赤に染め上がっている気がする。そう考えると、恥ずかしさのあまりますます身体は熱くなっていく。

 呼吸を整えようとしている私に、順平先生はニッコリと意味ありげにほほ笑んだ。


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