らぶ・すいっち
それは心外です
「良い天気になりましたね」
ハンドルを握る順平先生は上機嫌だ。なんでも元々車を運転するのは好きらしく、久しぶりにハンドルを握ることができて嬉しいと口にしていた。
「もちろん、安全運転には心がけますよ。隣には大事な人が乗っていますから」
そんな心臓に悪いことを言い出す順平先生。思わず小突いてやろうかと考えるほど、恥ずかしくて悶絶しそうだった。
今日、講演会が行われるのは車で一時間ほどにある会館だ。下道を使うとかなり時間がかかるということで、高速に乗ったのだが……。
「講演会なんて行かず、このままどこかにドライブに出かけてしまいたくなりますね」
「え……と、え?」
冗談なのか、本気なのか。どちらの意味でもとれるほど、自然に言うものだから返答に大変困る。
こうなったら無言を貫くか。いや、そればかりでは順平先生に再び心臓に悪い話題を振られ続けてしまうだろう。
それだけは勘弁していただきたい。となれば、私が無難な話題を提供し続けるに越したことはない。
まずは疑問に思っていたことをぶつけることにする。
「あの順平先生。聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
安全運転を心がけると宣言したとおり、順平先生は走行車線を走り、車間距離をしっかりとりながら運転し続けている。
まっすぐを見ながら、順平先生は返事をした。
私も先生と同様、まっすぐを見つめたまま聞く。