らぶ・すいっち
「遠慮します。いくら講演会とはいえ、彼女との時間を楽しみたいと思っていますから。そういう話は余所でしてください」
「なっ!」
牧村さんは顔を紅潮させ、口をわななかせた。
恐ろしい形相の彼女を見ても、順平先生は涼しい顔をしている。
牧村さんの手を払いのけ、順平先生は口を真一文字に結んだ。
「私は今、彼女を口説くのに必死なんです。誤解を招くような行動、私語は慎みたい。よろしくお願いしますね」
「まぁ!!」
彼女にとっては屈辱的な言葉だったのだろう。彼女はどう考えても復縁を求めるような言動をしていたのだから。
ギュッと唇を噛みしめたあと、牧村さんは何も言わずに踵を返した。
怒り狂っている牧村さんの後ろ姿を見ながら、私は小さく呟く。
「……元カノにあの態度はないんじゃないですか?」
「そうですか? 期待を持たせる行動をとるほうがよほど問題じゃないですか?」
「それは、そうでしょうけど」
やっぱり牧村さんは元彼女だったらしい。探りをいれるための発言だったが、改めて元彼女だと言われると複雑だし、なんだか嫉妬めいたものを感じてしまう。
そんな私の気持ちを察しているのか、順平先生は小さくため息をついた。
「私はね、先ほど彼女に会って幻滅しましたね」
「幻滅って……元カノですよね?」
「ええ、ですがあのような女性を一時期でも彼女にしていた自分に幻滅しました」
「……」
一刀両断。スパッと切れ味最高な鋭利な刃物でめった切りする。
あ然として目を白黒させる私を見て、順平先生は小さく笑った。