らぶ・すいっち
「今の時間は高速道路は混んでいることでしょう。下道を使って行こうと思いますが、須藤さんは山道は大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
確かにこれからの時間、帰宅ラッシュに巻き込まれる可能性は大だ。
それなら少し道は悪いが、山越えをしたほうがいいのかもしれない。
あいにく私は山道で酔うことはないので、順平先生の意見に賛同する。
しかし、私を危機的状況に追い込んでしまう選択になるとは、そのときは考えつきもしなかった。
講演会をした会場から離れ、少し車を走らせていくと山道へと入っていく。
「もし、気分が悪くなったら無理をせず早めに言ってくださいね」
「ありがとうございます」
順平先生の運転はとても丁寧だ。山道も無理をせず、安全運転で走行してくれる。
快適なドライブに、私は少しだけ油断していた。いや、かなり油断していたかもしれない。
すれ違う車はほとんどない。サイドミラーで後方を見ても、前方遙か先を見ても車は一台としていない。
きっと運転している順平先生は走りやすいことだろう。そんなことを考えている私に、順平先生は不意打ちのように話しかけてきた。
「須藤さんに聞きたいことがあります」
車のエンジン音のみの静かすぎる車内に、順平先生の低くて優しい声が響く。
景色を楽しんでいた私は、慌てて順平先生の顔を見つめた。
「なんでしょうか?」
私の視線が順平先生に向いたということが、彼にはわかったのだろう。
唇がゆっくりと弧を描く。だが、彼の口から飛び出した言葉に私は目を見開いた。