らぶ・すいっち
初めてづくしの恋
料理教室の裏手にある美馬家本宅は、英子先生と順平先生が二人で暮らしているらしい。以前、土曜メンバーのおば樣たちに聞いたことがある。
その本宅は、シンと静まりかえっていて明かりさえ灯っていない。
まずはその時点で不審に思う。今日は料理講演会に英子先生は来ていなかったが、今朝私を迎えにきた順平先生は「英子先生は家にいる」と言っていたはずだ。
それなのに人の気配がない。これはおかしい。
「あの、順平先生?」
「なんですか? 須藤さん」
扉のカギを開け、私の背中をソッと押して家の中に入ろうとする順平先生を見上げた。
動きを止めて順平先生を見上げたはずだが、彼の腕によって強制的に玄関へと足を踏み入れてしまった。
バタンと背後で扉が閉まる音がし、そのあとすぐに施錠をする音が聞こえた。
ハッとする私を余所に、順平先生は靴を脱ぎ玄関を上がると、私にスリッパを出してくれる。
「さぁ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……えっと、そうじゃなくてですね」
「なんですか? 須藤さん」
さぁ上がってください、と促され、私はそれを制止させた。
「あのですね。今、英子先生は?」
自分の部屋で寝ているのかもしれないし、もしかしたら少しだけ家を空けているだけなのかもしれない。
縋るような気持ちで順平先生に聞くと、その望みを見事に崩され笑顔で返されてしまった。