らぶ・すいっち
挑発には、挑発で!
「驚いた……」
「え?」
きょとんとした表情の順平先生なんて絶対に激レアだ。
腕の中で彼を見上げると、顔を真っ赤にさせている。これこそレアものだ。
土曜教室のおば樣たちが見たら、キャアキャアと黄色い声を上げるに違いない。
ちなみに私も心中穏やかではない。一人で声にならない声を上げている最中だ。
それほど至近距離でのこの表情は毒である。
「嫌われてはいない自信はありましたが、こうもすんなり受け入れてくれるとは……予想外でした」
「その割には、今日の順平先生は強引でした。ううん、今日だけじゃない。もうだいぶ前から」
その自覚はありました、と困ったように眉を下げる順平先生は、なんだかとても可愛い。
そんなこと口にしたら順平先生は拗ねてしまうだろうから、今はやめておく。今は、だけど。
「どうしても我慢できなかった。君が欲しかった」
「順平……せんせ?」
「今日行った雪見亭の店主も言っていましたが、全くここのところの行動は私らしくない」
ますます頬を赤くさせる順平先生は、目まで泳いでいる。
クールで、私限定で意地悪で。メディアにもひっぱりだこの美馬順平。
だけど、今私を抱きしめている彼にはその雰囲気は微塵もない。
私だけが見ることができる順平先生の顔なのだろう。それが心底嬉しい。
「それもこれも全部君のせいです」
「わ、私ですか?」
それは心外だ。だけど、嬉しさも込み上げてくる。
どうやら私は、順平先生のクールな仮面を剥がすことに成功したようだ。
ニッと唇に笑みを浮かべると、順平先生は心底悔しそうに顔を歪めた。