らぶ・すいっち
番外編 彼女は私を変えていく
「先生、このレシピなんですが」
「はい……ああ、それはもう少しかみ砕いて書いた方が読者にわかりやすいかもしれませんね。そこはあとで手を入れます」
「先生、先日決めた台割りのことなんですけど……」
「ああ。私も気になっていた箇所だったんで、家でもう一度練り直して新たなものを作ってきました。ほら、あのクリアファイルに入っているものです」
「これですか? 先生」
「はい、その書類に差し替えておいてください。あとラフも描いてきましたから、それを編集長とチェックしてください。あとで感想を聞かせていただきます」
私は料理をする手を止めず、編集部の担当さんたちに声をかけていく。
私の手元は今、カメラマンが光度などを調整しつつ何枚もシャッターを切っている。
一分一秒、気を緩めることなどできない。
何冊レシピ本を作ったとしても、いつもものすごく緊張する。
この一冊一冊に情熱を惜しみなく注ぐ。それはもちろん私もだが、周りのスタッフも必死だ。
今回のレシピ本は若い男性向けのもので、初級編から中級編、それらを応用した上級編とステップを踏んで料理の腕を磨いていってもらおうという狙いがある。
今までのレシピ本は、どちらかといえば料理好きな女性向けのものを制作していた。
だからこそ、今回のレシピ本は対象を変えた分だけ難しい。だが、そこが楽しい。
挑戦者の気持ちで挑む次第だ。
パシャパシャと近くでシャッターを切る音が聞こえる。フライパンの中で踊る食材を躍動感をつけ撮影するとカメラマンは言っていた。
いつもレシピ本を作るときにお願いしているカメラマンだ。絶大な信頼を寄せている。
今回もいい写真を撮ってもらえることだろう。