らぶ・すいっち
「嘘なんです」
「え?」
「えっと、その……予習のことを心配していたのは嘘で。嘘と言うより口実というか」
次の瞬間、歯切れの悪い須藤さんに、ふいに強烈なパンチをお見舞いされた。
「本当は……ちょっと順平先生の声が聞きたかっただけなんです。ごめんなさい!」
「あ、須藤さん!?」
電話は無情にもツーツーという機械音が流れているだけ。
すでに切られてしまったため、須藤さんに何も言うことができなかった。
彼女らしからぬ甘えぶりに、須藤さんは自分自身で限界が来たのだろう。
恥ずかしくて通話を切ってしまったようだ。
「ああ、どうしましょうね……この子は」
手間がかかるほど可愛いとはよく言ったものです。
そしてふと、須藤さんに対してこんなにものめり込んでいく理由が分かった気がした。
今までの彼女は何をやってもそつなくこなし、プライドが高い人が多かったように思う。
だけど、須藤さんは違う。料理に関して、そして恋愛に関しても天然で鈍感なところがある。
今まで付き合った女性とは正反対のタイプだと言ってもいいだろう。
ここにきて自分は手塩にかけて愛情を注ぐということが好きなことに気がついた。
だからこそ須藤さんを好きなったのかもしれない。
天然で抜けている面があるが、その反面凛とした姿も見せる。仕事中の彼女は本当にキレイでステキだった。そのギャップにいやというほど嵌まってしまった。
それに私に対して臆することなく向かってくるあの威勢のよさもきもちいい。
「あ、美馬先生。撮影に入ろうかと……思ったんですが」
「どうしましたか?」
スタッフの一人が私を探しにやってきたのだが、私の顔を見た途端呆気にとられている。
一体どうしたというのか。スマホ片手に首を傾げると、そのスタッフはあり得ないと呟いた。
「どうしたんですか、美馬先生。今、何を……」
「何って……彼女と電話していましたが?」
「彼女……」
「ええ、彼女です」
どうしたのだろうと怪訝な顔をした私に、スタッフは心底驚いた様子だ。