らぶ・すいっち
「決定じゃないです!」
「なんだ、残念です」
「そうじゃなくてですね、もっと先にしなくちゃいけないことってあるでしょ!?」
「先にしなくてはいけないこと、ですか?」
なんだかクイズのようですね。いいでしょう。考えてみましょうか。
同棲の前にすることということだから、たぶんあのことだろう。
私は自信満々で答えた。
「電話をもっとしてほしいとか、メールをしてほしいということですか?」
「違います。ってか、それって会いたいっていうのに含まれていると思います」
「では、須藤さんは私にもっと会いたいと思ってはくれていないということですか?」
須藤さんはものすごく慌てて、首を横に振る。
そのたびにキレイな黒髪が揺れて、とてもキレイだ。ああ、また触れたくなってしまう。
思わず手が伸びたが、その私の手は須藤さんによってはたき落とされた。
「会いたいですよ! 本当はもっと電話で話したいし、メールだってしたいし。だけど順平先生の荷物になりたくないし……」
「じゃあ、やっぱり同棲しましょう。一日のうち少しでも顔を見ることができますよ?」
それはそうですけど、と小さく呟く彼女を見て、私はニンマリと笑みを深くする。
このままもっと押せば、彼女は同棲をしてくれるかもしれない。
もう一押しだ。
「美馬家が嫌なら、私がここに住みましょうか? もちろん生活費はいれますし。それとも、どこか新しいマンションを……」
「ダメです! 英子先生が寂しがりますよ? 孫なんだから、ちゃんと一緒にいなきゃダメです!」
「じゃあ、須藤さんがうちに住んでください。もともとは私の家族も一緒に住んでいたので部屋数だけはあるんです」
「あれ? 順平先生のご家族ってどこにいるんですか?」
残念。話がそれてしまった。だが、好奇心たっぷりで目を輝かせている彼女の質問に答えず、同棲の話を進めたらへそを曲げてしまうだろう。
私は、小さく息を吐き出した。