らぶ・すいっち
「とりあえず私が把握しているだけでも二人はいるわ」
「……それはもちろん彼女を狙っている、ということですね」
「ええ。若造たちの考えなんて手に取るようにわかるわよ!」
鼻息荒く豪語するのは、土曜メンバーのリーダー的存在の松風さんだ。
「私、京香ちゃんがシフトに入っているときに化粧品を買いに行ったのよ。そうしたら、百貨店のフロアチーフっていうイケメンが京香ちゃんに声をかけていたのよ」
「それだけでは彼女を狙っているとは、言えないんじゃないでしょうか?」
「ふふん、そう思うでしょ? でもね、京香ちゃんにさりげなく連絡先を渡しているのはどういうことかしら?」
「……」
「仕事絡みなら、そんな手段取らないでしょ? それを京香ちゃんに言ったら“何言っているんですか、松風さん。これは同じフロアで働いているってことで名刺代わりにくれたんですよ”なんてのほほんと笑っているのよ」
それは緊急事態ですね。間違いありません。
口角をヒクヒクさせる私に、松風さんは追い打ちをかけてきた。
「それだけじゃないわ。そのあと、そのフロアチーフがいなくなってからのことよ。今度は常連客だという男が現れたわけ」
「待ってください。彼女が働いているのは女性向けの化粧品店でしょう?」
「バカね、順平先生は。今は男性化粧品も置いてあるのよ?」
「そうなんですか……」
確かにテレビなどでも宣伝しているのはみたことがある。それで男の常連客か。
納得はいくが、その状況はあまりいただけたものではない。
顔を歪める私に、松風さんは意地悪に笑う。
「で、ちょうど京香ちゃんの後輩ちゃんが一緒に接客してくれていたから聞いてみたのよ」
「……」
嫌な予感しかしない。
「その子の証言によるとね、京香ちゃんは恋愛フラグが立っていてもいつも素通りしちゃうらしいの」
「……」
「今も尚、かなりフラグが立っているらしいけど、なんせうちの先輩ですからね。気がつかないのは仕様ですって」
安心だと思っていてよいものだろうか。顔を渋くさせる私に、松風さんはニンマリと笑う。