らぶ・すいっち
後日談 何より最強なのは? 2
「順平先生、おはようございます」
「おはようございます、京ちゃん」
「あの……」
「なんですか?」
「どこでどうなって“京ちゃん”呼びになったんでしたっけ?」
今日は黒く艶やかな髪は高い位置でくくられており、彼女が身体を揺らすたびにサラサラと音を立てて揺れる。その樣を見ていると、どうしてもその髪に触れていたくなってしまう。
しかし、ここは公共の場。さすがにそれをやってしまったら、京は真っ赤になって怒り出してしまうだろう。
ヘタをすれば怒って帰ってしまうかもしれない。その辺りの線引きは慎重にしなければ。
でも、もし彼女が帰ろうとしても、それを私が許すかどうかは別のお話なんですけどね。
ニコニコと笑うだけで返事をしない私を、警戒しながら見つめる京は可愛いと思う。
27歳という年齢だけあって仕事場での彼女は凜々しいし、ふとした瞬間に大人の色気みたいなものも感じる。
だけど、こうして私と言い合っている京は大人な雰囲気とはかけ離れている。
そのギャップが堪らなくいい。
もう一度とびっきりの笑顔を京に向けたのだが、それで彼女が納得してくれるわけもない。
彼女の眉間に深い皺が寄る。それを見て、むくむくと悪戯心が顔を出してしまった。
「これからは京ちゃんで呼ぼうかと思います」
もちろん心の中では“京”と呼びますが、それはあえて彼女には教えません。
私の発言にもの申すとばかりに京は食いついてきた。
「名字呼びよりはいいですけど……なんか順平先生が私のことを”ちゃん”呼びするだなんて、なにか思惑があるんじゃないかと疑ってしまうんですけど」
「ふふ、そんなことはありませんよ」
いえいえ、さすがは京です。私の性格を把握しつつありますね。
そのことが嬉しくて、私は思わずぽろりと本音を零してしまった。