らぶ・すいっち
「こちらの口紅はいかがでしょう? オレンジ系統の色目です。元気いっぱいの英子先生の雰囲気にピッタリかと。いつも着ていらっしゃるお着物の色目にも合いそうですし。私なら、この口紅をオススメします」
今春発売されたばかりの口紅は、発色もいいし、春らしい色目がこれからの季節にぴったりだ。
自信を持って順平先生に差し出すと、彼は頷いた。
「私にはどれがなんだかわかりませんから、君に任せます」
「いいんですか?」
「ええ。職業柄、よく人を見ていますよね。君を信用します」
「えっと……はい。では、お会計を」
会計を済ませたあと、口紅を箱に入れて可愛らしくラッピングをし、順平先生にペーパーバックを差し出した。
お買い上げありがとうございます、そう言って頭を下げようとしたときだった。
私の言葉を遮るように、順平先生は満面の笑みを浮かべて優しく言った。
「ありがとう。きっとお祖母さんも喜びます」
「っ」
じゃ、と颯爽とその場を去って行く順平先生の背中を見つめたまま、私は動けなかった。
ゆっくりじわじわと頬が赤くなっていくのが分かる。
だけど、それを隠す余裕さえも私には残されていなかった。
(私……順平先生に、こんなふうにほほ笑んでもらったことない。初めてかも)
そう考えたら、ますます顔が紅潮してしまい戸惑いだけが私を襲ったのだった。