らぶ・すいっち
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「なんで、なんで? お父さん?」
私はインターフォンのディスプレイに映し出されているお父さんの顔を見て、大いに慌ててしまった。
このアパートに住むようになって早5年。その間、一度としてお父さん一人でやってきたことなどないのに。
いつもならお母さんと一緒に来て、仏頂面のまま帰っていくお父さん。
ディスプレイで確認する限り、仏頂面は標準装備だが隣にお母さんがいない。
それにアパートに来る際には、いつも確認の電話があるはず。それはなかった。
慌ててスマホを確認したが、メールの1通も届いていない。
「どうして? え? なんで?」
慌てすぎて思わず順平先生からの電話を切ってしまった。
あまりに挙動不審の私に、順平先生は不思議に思ってしまったことだろう。
「ま、まさか……順平先生がこのあとアパートに来るって事はないよね?」
電話の最中に来訪があったことは、きっと順平先生も理解しているはず。
となれば、さすがに大人な順平先生のことだ。
お客様が来ていれば私のアパートに来ることを遠慮してくれるだろう。
いや、うん大丈夫。そう思いたい。
私が早く応対しないものだから、再びインターフォンのチャイムが鳴った。
もう一度ディスプレイを確認したあと、私は小さくため息を零す。
そして覚悟を決めてインターフォンの通話ボタンを押した。
「お父さん?」
声をかけたが、返事はない。いつものこととは言え、頭が痛くなってくる。
「お父さん、どうしたの? 突然。お母さんは?」
「……」
その問いかけにも返事はこない。仕方がないと扉を開けようかと思った瞬間、渋い声が聞こえた。
「母さんはいない。父さん一人できた。開けなさい」
「……」
必要最低限のことだけしか言わない私のお父さんは、やっぱりいつもどおりだ。
私はインターフォンの通話を切ったあと、玄関へと急いだ。