らぶ・すいっち
* * * *
必死に私を追い返そうとする京に、思わずむきになってしまった。
それに玄関に置かれた革靴はどうみても男性もの。今、この部屋に男がいる。
それがわかった以上、おめおめと帰るわけにはいかない。
半ば強引に部屋の中に入ると、そこには自分の親世代の男性がひとり。
どこか頑固な雰囲気は京によく似ている。と、いうことは……。
「君は誰だ? 娘の部屋に上がってくるとは」
その男性はお湯のみを片手に、私を睨み付ける。
私は京に紹介される前に、自分から名を名乗った。
「京香さんのお父さんでしょうか。初めまして、私は美馬順平といいます」
「美馬……」
「ええ。美馬順平です」
頭を深々と下げたあと、私は再び京のお父さんと対峙する。
威圧的で、仏頂面。どこか融通が利きそうにない雰囲気。私はこういう人を何人も見てきている。
それは職人と呼ばれる人たちだ。
職業柄、料理人と呼ばれる人たちと接することが多いので、なんとなく雰囲気で京のお父さんが何か手に職を持っている人ではないかと推測した。
京のお父さんは、じろじろと私を厳しい視線で見ている。まあ、当然なことだろう。
愛娘の部屋に我が物顔をして入ってきた男など、父親からしたら敵以外のなにものでもないはずだ。
とにかく長い付き合いになるであろうから、気を抜くことは出来ない。
失礼します、とその場に正座し、京のお父さんからの言葉を待つ。
シンと静まりかえる一室。それに耐えきれなくなったのは京だった。
「あ、あのね。お父さん。えっとその、順平先生は私の体調を気にしてくれていて……ほら、こうして食材を買ってきてくれたの」
ほら、と私が持ってきたスーパーの袋をお父さんに見せる。しかし、それを一瞥しただけで口を開こうとはしない。
「京ちゃん、申し訳ないですがそれらを冷蔵庫に入れておいてくれませんか? 肉なども入っていますから痛んでしまうでしょう?」
「あ、はい。で、でも……」
不安げに揺れる瞳。京は私とお父さん二人きりにしてもいいのかと訴えているのだろう。
大丈夫、とにこやかに笑って頷いたが、まだ心配が収まらない様子だ。
「少し二人きりでお話させていただきたいので、京ちゃんはそれを冷蔵庫に入れておいてくださいね」