らぶ・すいっち
「初めまして。京香さんとお付き合いさせていただいている美馬と言います。挨拶が遅くなりましてスミマセンでした」
もう一度頭を下げたあと、京のお父さんを見る。少しの沈黙のあと、やっと京のお父さんが口を開く。
「京とはいつから?」
「出会いは一年前です。付き合いだしたのは最近ですが」
「一年前?」
「はい。京香さんは、私の祖母が運営している料理教室の生徒さんで」
すべてを説明しようとしたのだが、それを京のお父さんに遮られた。
「美馬クッキングスクールに京が一年前から通い出したということか。本人も一年前から料理教室に通い出したと言っていたし。で、君はそのお祖母さんの孫。君も料理教室を手伝っているのか?」
「はい、その通りです」
驚きつつ頷く私に、京のお父さんはフゥと小さく息を吐き出した。
「美馬順平。名前は聞いたことがある。よくメディアにも出ている若造だろう」
「……はい」
「私は君みたいな立場の人間は嫌いだ」
「どういうことでしょうか?」
「料理をなめてかかっている、違うか?」
どう反論すればいいのか迷い戸惑っていると、京のお父さんは眉間に皺を寄せ、厳しい顔で私を見つめてきた。
「私は料亭を営み、板長として日々努力をしている。そして私の弟子たちも、それは必死な思いで包丁を握っている」
「料亭……板長、ですか」
「京から聞いていなかったのか? 私は“ぼたんいろ”という料亭の板長をしている」
「ぼたんいろ!」
名前も聞いたことがあるし、実際にお祖母さんのお供で着いていき、料理をいただいたことがある。
このあたりでは老舗中の老舗、一見さんお断りの料亭だ。
一度料理をいただいたが、それはそれは見事な仕事ぶりだった。色鮮やかな日本料理に見惚れたことは忘れない。
あのとき、お祖母さんは「板長と話してくるから、お料理をいただいていてね」と中座した。もしかしたらお祖母さんと京のお父さんは知り合いなのかもしれない。
驚く私に、京のお父さんはフンと鼻を鳴らす。