らぶ・すいっち






「料理をなめきったヤツが、得意満面でメディアに出ているのは正直許せない」

 ああ、これで納得した。京のお父さんを見たとき、どこか職人らしい頑固さが見えたのはこういうことだったのだ。
 ここまでのことを考え、腑に落ちていると、京のお父さんは腕を組んだ。


「もう一度言う。君は京とどうなりたいと思っている? 京の母親は、知り合いの息子と結婚させたがっているようだが。私は弟子と京を結婚させたいと考えている」
「っ」


 京のお母さんが勧めている相手とはあの編集者ということで間違いないだろう。そして京のお父さんは弟子と京を結婚させ、料亭“ぼたんいろ”を継がせたいと考えているのか。

 これは思っていた以上に、京を手に入れるのは大変なようだ。
 さて、どう対処しようか。そう考えを巡らせていると、目の前の京のお父さんは私を挑発してきた。


「京の母親は反対しているが、私は、京の結婚相手は“ぼたんいろ”を引き継いでくれる男だと思っている。君は今の料理研究家なるものを捨て、日本料理職人になる決意はあるか? もしあるようなら京との付き合いを考えてやってもいいだろう」


 これは明らかに私を京から離そうとしているのだろう。
 鋭い視線に打ち勝つよう、私は背筋をピンと伸ばし言い切った。


「彼女にはまだ何も言ってはいませんが、私は京と結婚いたします。誰が何と言おうが、妨害しようが受けて立ちましょう」
「……」
「私にとって一番手強い相手は京だと思っていますから。それに私は今の仕事に誇りを持っています。京のお父さんでも先ほどの暴言は許せません。撤回してください」


 京のお父さんの唇がわなないている。きっと私みたいな若造にここまで言われるとは考えてもいなかったのだろう。
 しかし私も黙ってはいられない。怒鳴られるのを覚悟で言葉を発した。







 
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