らぶ・すいっち
「私にはまだ言ってくれないんですか?」
「え?」
「お父さんにだけなんてズルイです。私はまだ肝心な言葉、もらっていませんけど」
結婚する、だなんて当然のように順平先生はお父さんに言っていたけど、私はまだ聞いていない。
不服さを滲ませると、順平先生は悪戯ッ子のように目を細めた。
「だって京ちゃん。まだ私と結婚する決意がないでしょ?」
「え?」
「結婚の決意が出来た頃に、もう一度仕切り直させてもらいます。私は君と付き合い出した、いいえ、その前から未来を見据えていましたから。京ちゃんとは想いの重さが全然違いますよ」
真っ赤になって言葉をなくす私に、順平先生はクツクツと意地悪に笑った。
「その準備期間が同棲なんです。どうですか? 私に賭けてみませんか?」
余裕綽々な表情と態度を見て癪に感じたが、それこそが順平先生なのだから仕方がない。
私も知らぬ間に毒されたものだ。でも悪くない。全然悪くない。
コクリと小さく頷くと、順平先生はお父さんを振り返った。
「ということで、娘さんと結婚を前提とした同棲を始めようかと思います。お許し願えますか?」
清々しいほど爽やかな笑みを浮かべる順平先生は、やっぱり無敵かもしれない。
あの頑固で融通が全くといっていいほどきかないお父さん相手に、ここまで言い切るだなんて。
しかし、相手はあのお父さんだ。きっと烈火のごとく怒り狂うに違いない。
その覚悟を決めていた私の耳に飛び込んできたのは、意外な言葉だった。