らぶ・すいっち






「とにかく認めん! 京はお前なんぞに渡さないぞ。京は実家に戻すからな!」


 捨て台詞を吐き捨てた後、お父さんは一目散に部屋を出て行ってしまう。
 呆気にとられている私の背を、順平先生は優しく押してきた。


「京ちゃん、いっていらっしゃい」
「順平先生?」
「お父さんはきっと京ちゃんの意思を認めてくれるはずですよ?」
「そんな訳ないです。だってあのお父さんですよ? 順平先生だって話してみてわかったでしょ?」


 昔ながらの職人気質。頑固者で融通がきかない。生まれたときから一緒に過ごしているんだから、それぐらいわかる。
 首を振る私に、順平先生は優しく諭した。


「大丈夫。今のお父さんなら京ちゃんの言うことに耳を傾けてくれると思います」
「どうしてそんなに自信があるんですか?」


 不思議なほど自信満々に言う順平先生を見上げると、彼は困ったように肩を竦めた。


「同じ頑固者同士だからかもしれませんね」
「順平先生?」
「今の京ちゃんみて、ガックリ肩を落とされていたから。慰めてあげてください。やっぱり娘はいつまでたっても可愛いものだと思いますから」


 肩なんて落としていただろうか。不審がる私に、順平先生はクスクスと笑い出した。


「真っ赤になった京ちゃんを見て、愕然としていましたよ、お父さん」
「え……」
「だから行ってあげてください。私もお父さんを苛めすぎちゃいましたから、慰めてあげてください」


 まだ今ならお父さんを捕まえることができるだろう。
 順平先生の後押しを得て、私は部屋を飛び出した。






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