らぶ・すいっち
「いつもの京香先輩らしくない。乙女な笑顔です!」
「……」
乙女な笑顔というのも突っ込みたかったが、それよりなにより『らしくない』とは一体どういうことだ。
私だって、色々恋愛をしてきたんだぞ。
今は少しだけ恋愛から遠ざかっていたとしても、乙女だった頃だってあったんだ。
ヒドイ言われようだが、いつもと違うということを後輩は言いたかったのだろう。
優しい優しい私は、後輩の暴言に対しても表だって怒りはしなかったけど。
しかし、後輩が心配するように、自分でもいつもと違うという認識はあった。
一人で住んでいるアパートに戻ってからも、どこかフワフワと落ち着かないし、順平先生のことを思い出すたびに、顔が熱くなる。
一晩寝て、だいぶ落ち着いた私だったが、やっぱりどこか順平先生に会うのが気まずかった。
こんなふうに思っているのは間違いなく私ひとりなわけだけど。
そう考えると、悩んでいる自分がバカバカしくなって……いつもどおり元気な須藤京香の出来上がり。
馴染みの土曜メンバーのおば様たちと、いつもどおりの教室を楽しんだ。だが、その日はいつもと違っていた。
イヤミを言って私を弄る。それはいつも通りの風景だと思う。
しかし、なんだろう。接し方がふんわり柔らかくなった。
最初は気のせいかと思っていたが、こうして何週も以前とは違う順平先生を見てしまうと気のせいで片付けるわけにはいかない。
相変わらず辛辣な言葉で私を弄るくせに、最後にフォローを忘れずに入れたり。
私を見る順平先生の目が優しく感じたりと、おば様たちが言うように順平先生が少しだけ柔らかく感じる。
(あの日、私が口紅を選んであげたのがきっかけなのかな。優しくなってくれるのはこちらも嬉しいからいいんだけどね)
ほんの少しだけ距離が縮まったかもしれない、私と順平先生の関係。
しかし、それが今日もう少し距離が縮まることになるとは想像もしていなかった。