らぶ・すいっち
「大丈夫ですよ。須藤さんの料理オンチは、ちょっとやそっとじゃ直りませんから」
「な、なんですって!!」
この頃の成長は著しいものを自他ともに感じているというのに。順平先生の発言はいただけない。
目くじらを立て怒る私に、順平先生は涼しい顔で私の手元を指さした。
「ほら、気をつけて。折角キレイに皮が剥けても、切り方が悪かったら台無しになりますからね」
「……」
「須藤さん。包丁がそれなりに使えるようになったからと言って安心していてはいけませんよ?」
「へ?」
どういう意味だろうと小首を傾げる私に、順平先生はクツクツと意地悪く笑った。
「料理は切るだけでは終わりません。そのあとの調理方法は……いくらでもありますからね」
「っ!」
要するに、まだまだ教えないといけないことがあるから、私にイヤミを言ったり弄ったりする機会はたっぷりありますよと言いたいのだろう。
確かに素材を切るという難関はなんとかクリアしつつある。
しかし、順平先生の言うとおり。それだけではまだ料理とはいえない。
(やっぱり天敵だ!)
笑いながら私たちのテーブルを去る順平先生の背中を、思いっきり睨み付けた。
ギリギリと歯ぎしりする私を見ておば様たちは楽しげに笑い、卵焼き器を手渡した。