らぶ・すいっち
「では、授業を始めて行きましょうか。普段通りの教室風景を取材したいということで、雑誌社の方は途中入場されてきます。ですので、いつもどおり教室を行うことにしましょう」
パンパンといつものように順平先生は手を叩き、自分に注目するように土曜メンバーを促した。
授業が始まれば、土曜メンバーは一斉にメモを取り始める。
このケジメの付け方には、順平先生も好ましく思っているのだろう。皆がメモの準備をし出す瞬間。彼はとても嬉しそうに瞳を細めるのだ。
それをチラリと見たあと、私も慌ててメモ用紙を取り出した。
今日のメニューは、巻き寿司だ。もちろん中の具材は一から調理していく。
(か、かんぴょうなんて調理したことない! 食べたことしかないよ)
私から見れば、白いただの帯状の物としか思えないかんぴょうを目の前にして、すでに戦線離脱を決めた。
今回の授業も、私にとって戦わないといけない相手が多い様に思う。
椎茸の含め煮ももちろんだが、なんといっても厚焼き卵……。
今だにうまく出来ず、順平先生からは落第点を突きつけられているものだ。
でも、最初よりは幾分かマシにはなったとは思う。
しかし、初めて一人で卵液から作り、焼いたときのだし巻き卵……あれはもう、忘れられない代物となった。
砂糖と塩を間違い、先生に大目玉をくらったのは記憶に新しい。
そう思えば、多少の焦げぐらい大目に見てもらいたいものだ。
そのことを口にすれば、順平先生だけではなく、土曜メンバーのおば様たちにも突っ込まれそうなので言わないけど。
今日の太巻きだが飾り巻もするらしく、こちらも難易度が高い。
確かにこの土曜日午前の順平先生のクラスは上級者向けコース。
普通のものを普通に作るというより、より高度な技を取得するためのコースだ。
そう考えると、なんで私がこのコースにぶち込まれたのか。今だに謎である。