らぶ・すいっち
突然の訪問者



 ピンポーン、とアパートのチャイムが鳴った。

 だが、今の私には来客を応対する余裕はこれっぽっちも残されていない。
 独りで暮らしているアパートに、予定もない来客は来ない。
 もし来たとしても宅配業者か、新聞の勧誘か。そんなところだろう。

 ちなみに今日、このアパートに訪れる予定の客は皆無だ。
 とりあえず無視を決め込もう。静かにしていれば、そのうち諦めて帰って行くだろうから。

 それよりなにより、私には悩ましい案件が残されている。これはもう、どうしたらいいものだろうか。

 
(ああ、もう! どういうこと? あれって……どういうことなのよ)


 順平先生に訳が分からない言葉を言われ、気がついたら強引にキスをされていた。

 犬猿の仲だった私たちなのに、どこでどうなってあんな状況になったのだろう。
 順平先生は、私のことが好きだからキスをしたのだろうか。

 はっきり好きだとは言われなかったが、“恋のスイッチ”うんぬんの話を信じるとすれば、そういうことなのだと思う。

 
『君の中のスイッチは、オンになりましたか?』


 あのときの順平先生の言葉が、ずっと脳裏で回っている。
 なんとかして消そうとしても、消えてくれない。


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