らぶ・すいっち
「えっと、合田くん。もしかして私のアパートに今もいるとか?」
「ご名答。ほら、さっさと出てこい。メシ食いに行こうぜ」
「ちょっと今日は……。また日を改めてで」
「そう言ってフェイドアウトしようと思っているだろう?」
「っ!」
読まれている。さすがは元彼氏と言うべきだろうか。
合田くんは、付き合っているときも私の心情を読み取るのが上手だった。反面、私は全然彼の心情が読めなくて、悔しい思いを幾度もしてきたが。
黙り込む私に、電話先の合田くんはクツクツと人の悪そうな笑い声を上げた。
「そのうちドアの前で“京香ちゃーん、遊びましょー”って叫んでやるぞ?」
「バ、バカ! 何言っているのよ」
「いや、冗談じゃなくて。じゃあ今からお前の部屋の前で呼んでやろうか?」
「それって脅しじゃないのよ!」
「ご名答。さぁ、さっさと出てこいよ。目の前の駐車場で待っているから」
それでも考え黙り込む私に、悪魔は再び笑った。
「近所迷惑だって怒られてもしらねぇーぞ?」
「……わかった。少し待ってって」
「OK! 化粧なんて直さなくていいぞ? お前のすっぴん姿は高校の時に見ているんだから」
「一言余計なのよ! 出て行かないわよ」
プリプリ怒る私に、合田くんは豪快に笑った。
「そういう意味じゃない。お前はすっぴんでもキレイだから不必要なことはしなくていいと言っただけ。早く出てこいよ」
言いたいことだけを言って、電話は切れてしまった。
相変わらず強引というか、直球勝負というか。
なんだかあれこれ考えるのがばからしくなってきた。
「……しかたない、出かけるか」
軽い感じで脅されたが、彼は冗談で言ったわけではない。あれはやる。本気だ。
それがわかっているからこそ、早く駐車場に行かなければ。
大きくため息をついたあと、私は化粧を直すこともなく外にでた。