らぶ・すいっち
非・テンプレート
「やっぱり図星か。その様子じゃ、数時間前にわかったってとこか?」
「……」
身体中が熱い。なんとも言えぬ羞恥を感じ、私はおしぼりを指で弄るだけしかできない。
それにしても、どうして合田くんにはわかってしまったのだろう。
数時間前だなんて、順平先生からアプローチされた時間まで言い当ててしまうなんて……
でもそれは、順平先生が本当に私のことを好きでやったという前提ではあるのだけど。
からかいじゃない……とは思う。だけど、断言できない。
言葉に困る私に、合田くんは深く息を吐き出し、不機嫌そうに呟いた。
「あの先生。お前を食事に誘おうとする俺を、すごい剣幕で睨んでいたからな」
「えっとね、合田くん。それが原因で先生が不機嫌な顔をしていたわけじゃないと思うわよ。授業中に話していたのが気に入らなかったんじゃないかな」
無表情だった順平先生のことを思い出す。
あのときは、授業中に私語を話していた私に対して怒っていたのであって、合田くんがいう“嫉妬”とは別もののはずだ。
もしくは、個人レッスンのことを皆にばらしてしまったことへの怒りかもしれない。
いや、ちょっと待って。仮にももし、あのキスが本気で、順平先生は私のことが好きだと仮定すると……そういうこと ——— 合田くんに嫉妬 ———もあり得るのかもしれない。
(あのキスは本気だったのかな……からかわれていないとは思うけど)
それなら順平先生は私のことが好きということなのか。ああ、ますますよくわからない。
言葉って大事だなとつくづく思う。
あの場面で私に対して好きだという言葉があれば、こんなふうに悩んだりしなくて済むのに。
でも、今度は違う悩みもでてくるか。やっぱり悩みというものは次から次に襲ってくるような仕組みなのかもしれない。
ああ、もうよくわからない。