らぶ・すいっち
(ああ、もう。何が何だか、さっぱりだわ!!!)
とりあえず今はこの息苦しい空間から抜け出したい。
その一心で、私はお膳に乗せられた、ほっぺたが落ちそうなほど美味しいはずの料理を急いで口に運んだ。
はっきりいって美味しい料理が、砂を噛んでいるようで味がしない。
美味しい料理というものは、心が穏やかなときにゆったりとしながらいただきたいものだ。
食事も終わらせ、なぜか無言のままでいる合田くんに促されて、再び彼の車に乗り込んだ。
エンジンをかけると、ステレオからDJの陽気な声がした。
この重い沈黙が少しだけ和らいだ気がして、ホッと胸を撫で下ろす。
しかし、そのつかの間の休息もすぐに合田くんの手によって絶たれてしまった。
ラジオを消し、再び沈黙が私たちの間に落ちる。
聞こえるのは車のエンジン音のみ。静かすぎるこの密室は、なんだかヤバイ気がする。
しかし、車は来た道を戻っていることだけはわかり、少しだけ安堵した。
どこへ行くの? と聞いたとき、“逃避行”だなんて合田くんが言っていたから、少しだけ心配をしていたのだ。
だが、それはやっぱり私の杞憂だったらしい。
車は私のアパートの駐車場に停まり、エンジンも切られて今はただただ静寂だけだ。
とりあえず食事のお礼だけは、もう一度言っておかなければならないだろう。
会計時、自分で払うと言い張ったのだが、合田くんと宇佐見さんにうまく丸め込まれてしまい、とうとう支払うことが出来ず、合田くんがおごってくれるという形になってしまった。
「こういうのは気持ちよく“ありがとう”って言っておけばいいんだよ。それだけで男は喜ぶ単純な生き物なんだから」
宇佐見さんにそう耳打ちされてしまっては、それ以上遠慮するわけにもいかなかったのだ。
「ごちそうさまでした。今日は本当にびっくりしたけど、こうして昔みたいに話すことができて良かったと思うよ」
すぐにでも車から降りることができるようにと、シートベルトに手をかけた私だったが、その手は合田くんに掴まれてしまった。