らぶ・すいっち
「そんなに怯えるなよ」
「怯えてなんてない!」
強がりを、と困ったようにほほ笑んだあと、合田くんは瞳を細めた。
「大人の女と男だぜ?」
「そ、そんなの関係ない。大人ならキスするの? 嫌がっている私を離してくれないの?」
最後は叫び、懇願するように言うと、合田くんはやっと私から離れてくれた。
ずっと掴まれていた手首が痛い。もしかしたら赤くなってしまっているかもしれない。
辺りに電灯もなく暗闇の車内では、それを確認することはできない。
ただ、ひとつ。ひとつだけはっきりしたことがある。
私は、合田くんとは……彼とは付き合うことはできないということを。
高校生の頃は、彼が近くにいるだけで無条件で嬉しかった。
手を繋ぐたびに胸がドキドキして、何度繋いでも心臓が苦しいほどドキドキするのは変わらなかった。
だけど時を超え、昔の恋人として出会った今。
彼の手が私に触れ、私にキスをしようとしたとき。私は確かに嫌悪感を感じた。
心の距離が開いてしまったということなのだろう。
今、ここにいる私は合田くんを欲してはいない。
いろんなことがありすぎて頭の中がパニック状態の私だが、それだけは断言できると思う。