青い記憶

雄ちゃんが話しかけてこなくなると、奈帆ちゃんからの鋭い視線も感じなくなった。

これでいいんだと何度も自分に言い聞かせた。

集団授業でも雄ちゃんは後ろを振り向かない。授業が終わると、今までは私に寝てた分のノートを見せてとせがんできたけど、もうそんなこともしてこない。黙って教室から出て行く雄ちゃん。


個別授業で終わる時間が一緒になっても、いつのまにか仲良くなった男の子たちとワイワイ出て行く雄ちゃん。私には見向きもしない。


あたりまえなのに。


私はどこか期待していた。


振り返って笑顔を見せる雄ちゃん。


私の頭に手をのせて笑う雄ちゃん。


全部全部、私が無かったことにしようとしたのに、いつも期待して、がっかりする自分がいた。



そんなある日、私が塾を出ようと靴を履き替えていた時、雄ちゃんたちの男の子のグループとばったり同じになった。

みんなワイワイ喋りながら履き替えて出て行く。雄ちゃんは1番最後。塾の玄関は狭いから雄ちゃんと久しぶりの至近距離だった。

だけどお互い、お互いを見ないように靴を履き替える。同時に履き終え、立ち上がる。

私は雄ちゃんが先に出るのを待とうと立ち止まったまま。


__ ポンポン


懐かしい感触。雄ちゃんが私の頭に触れたんだ。

前のように、優しく。


そのまま出て行く雄ちゃん。

顔は合わせなかった。




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