青い記憶
いつのまにか根岸くんはいなくなってて誰も助けてくれない。
必死に避けようとしたけど、ドアが邪魔して逃げ切れない。
もう無理だと思った瞬間…
廊下側からグイっと手首を引っ張られ、半回転して誰かの腕の中に収まった。
目の前には目も口もあんぐり空けたまま停止している吉野。
「お前、まじで殴られたいの?」
「晴くん!」
晴くんに包まれている安心感で暫くそのまま固まってたけど、ここは休み時間の廊下。通り過ぎる人たちの視線や、立ち止まってニヤニヤしてる人までいる。
途端に恥ずかしくなってスルリと晴くんの腕から抜け出した。
「ごめん、晴くんありがとう」
「ヒューヒュー!お熱いね〜」
ここまできてもまだふざけてる吉野。こいつ、まじでやばいやつなの?
「まじでお前、亜美に指一本でも触れたら覚えとけよ」
冷たい目に、冷たくて低い声。
晴くんと付き合ってわかったことは、晴くんは怒ると誰よりも怖いこと。
私に怒ることなんて絶対にないし、滅多に怒ることはないけど、その滅多に起こらない分、まじで怒ったときは本当に怖い。
「ごめんって多野〜。そんな俺が亜美ちゃんに手出すなんて自殺行為しないからさ〜」
「お前、その呼び方もやめろ」
「すみません、清川さん」
そろそろやばいと気づいたのか、急にぺこりと頭を下げる吉野。だけどここまできたら、それすらノリにしか見えない。