それは、一度終わった恋[完]
「ではこれで。また週明け話し合いましょう」
淡々と会話を終わらせて、宅配のお兄さんのようなテキパキとした動作で一之瀬さんは頭を下げた。
泣いていることがばれたら嫌だったので、私もそれはそれで助かった。そのまま私も頭を下げて、ドアのぶに手をかける。
「ありがとうございます、おやすみなさ」
しかし彼はドアの淵に手をかけて、そのまま手前に引いた。ドアノブを持っていた私は、それに引き寄せられて彼の方へとバランスを崩した。
「仕事の話はここまでです」
「一之瀬さん……?」
「何かあったのか」
茶色い瞳で、彼は私の震えた瞳を射抜いた。それから、涙の跡を指で拭った。
一之瀬さんに触れられたことに驚いて、私は少し退いた。でもその分キッチリ彼は距離を詰めてきた。
「何があった?」
「いや、ただの花粉症で涙が……」
「いのまりになんか言われたのか。 俺も窓開けてたからガンガンさっきの怒りの叫びとすすり泣く声聞こえてたけど」
「嘘ですよね」
そ、そんな……ハゲとかは口にしてなかったよね? 大丈夫だよね?
思い切り狼狽しているうちに、一之瀬さんは靴を脱いであがっていた。
「えっ、ちょっと、あの!?」
「何があったか話して。解決したら帰る」
「何をむちゃくちゃな……」
呆れかえっていたけれど、本人は至って真剣らしく、ソファーに座ったまま動かない。サークルの中で大魔王というあだ名をつけららていたことをその姿を見て思い出した。
「一之瀬さん、いのまりのこと覚えてたんですね」
「いや、顔は全く思い出せないけど、いつも露出が謎に多かったのは覚えてる」
「それ体はちゃんと見てたってことですよね」
「それは本能だから仕方ない」