それは、一度終わった恋[完]
引きずっている恋愛
「やだもう久しぶりー!! あがってあがってー! あ、ちょっと待ってこの古いスリッパをスミ先生にはかせるわけには……ねえ雄志ー、雄志ー! 新しいスリッパ持ってきて」
「いや佐々木さん充分です大丈夫です落ち着いてください」
この間の資料の御礼に、久々に佐々木さんと会うことになった。
佐々木さんの旦那さんはカメラマンで、今度アイドルものの読み切りを描くことになっていたので色々と撮影現場についての質問に答えてもらっていたのだ。それに加えてアイドルの写真集も沢山もらってしまったので、その御礼にとケーキを届けに来た。
というのは建前で、本当は久々に佐々木さんに会いたかっただけなのかもしれない。
「先生りんご好きでしたよね、アップルティーとかどうです?」
「あ、全然いいですよ、座っててくださいむしろ自分で」
「いいのよ、妊婦でもたまには動かなくちゃ」
そう言って、佐々木さんはアップルティーを淹れて、可愛らしい星の形のステンドグラスクッキーも出してくれた。
二ケ月前よりだいぶ大きくなったお腹を見て、私は改めて佐々木さんはママなんだなあと実感した。
第二子の出産ということもあって、あまり不安はないようで、いつも通りの佐々木さんであった。
「よいしょっと。で、イッチーとは上手く行ってる?」
おなじソファーに腰掛けた佐々木さんは、早速というように話題を投げかけてきた。
「え、いや、まあなんとか」
「イッチーと仕事するとさー、大抵の女性漫画家さんは綺麗になってくんだけど、おかしいなあ、なんか逆にスミ先生は疲れているような……」
佐々木さんの推理に、私は苦笑いをするのみであった。
やはり顔にここ最近の気疲れが出てしまっているのだろうか。
「一之瀬さん彼女いるんですよね? そんなに作家さんからモテると彼女さんも気が気じゃないですね……」
「あーもしかしてあの肉食彼女!? 同じ部署の新人なんだけど、もうイッチーにメロメロって感じでさあ、押されに押されて、とうとう付き合っちゃったのかー、知らなかったなー」
そ、そんなに肉食な人と付き合っているのか……知らなかった。
驚きクッキーを詰まらせそうになっていると、佐々木さんが食い気味に質問をしてきた。
「で、先生は最近いい人いないんですか?」
「えっ、私ですか……いや全然、あ、でも来週お見合い相手の人と軽く会うことになりました」
「お見合い!? その年で!?」
佐々木さんは目を見開き驚いた。