それは、一度終わった恋[完]
よくもまあそんなことを、サラッと言ってのけられるものだ……。
げんなりとした顔で一之瀬さんを見ると、一之瀬さんはプイッと目をそらした。そんなあからさまな態度を取らなくたっていいじゃないか。
でも、彼がそんな態度を取るのも無理はないかもしれない。
私は、最も再会が気まずいとされる〝自然消滅〟という別れ方を選んだからだ。
「ていうかさあ、2人住んでるところ近くない?」
ホットサンドを頬張りながら、佐々木さんが私達を交互に指差しとんでもないことを言いのけた。
「思ったんだけど、スミ先生の引っ越し先ふつうにイッチーと同じマンションじゃない?」
「え」
私達は同時に気まずい声を上げた。
「世田谷区◯◯3-12-5 城沢ガーデンズって、すっっごい見覚えある引っ越し先だと思ってたけど、一之瀬の住所だったからなのねー」
佐々木さんはホットサンドをコーヒーで流し込んでから、やっと解決したというように、笑って言ってのけた。
「本当すごい偶然! 打ち合わせとかもはやイッチーの家かマンションのロビーでいいんじゃないの?」
パチンと手を合わせて無邪気にそんな恐ろしい提案をする佐々木さん。今まで彼女に対して感謝の気持ちしか抱いたことはなかったが、私は今初めて彼女に静かな怒りの気持ちを抱いている。
というか、引っ越し先が彼と同じマンションって、どういうこと?
本当にそんな偶然ってあるの……?
「因みに何号室ですか、スミ先生」
ごくりと生唾を飲み込みながら、一之瀬さんが私に確認をしてきたので、私も緊張感のある声で答える。
「708です」
「709です」
長い長い沈黙が流れた。
もはや運命のいたずらなんて、そんな可愛らしいものではない。
いたずらを超えて、天罰かと思うほどの全く望んでいない気まずい奇跡だ。
「じゃあもしカレー作り過ぎたらシェアできるわね!」
全く空気を読めない佐々木さんの存在に、私はやっぱり深く感謝をした。