Destiny
「せっ、せせせ芹起きませんね…!
すみません、起こして帰りますから!!」
慌てて立ち上がり、芹に駆け寄って思い切り身体を揺らす。
「芹!! 芹起きて!! 帰ろう!! ね!?」
「…ぶふっ」
後ろから聞こえた吹き出すような笑い声は、マスターのものではない。
あの日からずっと焦がれていた、彼のもの。
「…っくっく…」
押し殺したように笑い続けながらも顔を隠しているから、
表情は見えない。
「おやおや、キョウくんがこんなに笑うなんて珍しいですねえ」
「いやっ、だって…百面相…」
顔を隠す腕の隙間から、ちらりと一瞬だけ見えたその表情。
無表情でも愛想笑いでもない。
屈託のない無邪気な表情。
―わたしは、同じ人に二度、恋をしたの。